4  鶴 来

波切不動尊

不動堂 鶴来にはお不動さんが町の中のそこここに祀られています。北陸鉄道の加賀一宮駅から町の中心に向かって少し歩いたところにも一体のお不動さんが、ちょっと古風なお堂に祀られています。横にシュロが二本、ぬうっと立っていて、それが不釣合いのような、しかし、それで良いような不思議な感じです。
波切不動尊 お堂には真中に大きなご本尊が安置されていて、その左右に小さな石仏が何体も置かれています。お花が供えてあるご本尊の前にはゴザが敷かれていて、この辺りの信心深い人が朝晩お勤めしているようです。何を拝んでいるのだろう、とちょっと興味がわいてきます。

 ご本尊は波切不動と呼ばれている2メートルを超える石仏の不動明王です。自然の岩に彫られたいわゆる磨崖仏ですが、表面がひどく崩れていて、近くで見ても線刻なのか、浮き彫りなのか、はっきりしません。それでも光背の火焔には赤い彩色が残っているし、目、口、鼻も分かり忿怒(ふんぬ)の形相だと見て取れます。面白いのは右頬下辺りの崩れ方で、頬の輪郭線が消えているためフッーンと鼻息が荒々しく出ているように見えます。(下の写真)
波切不動尊 顔 眼がまん丸ではないし、左眼が半開きの眇のようにも見えるので、彫られたのは室町時代だろうかと思ったら、表の案内板には鎌倉時代の作とありました。
 また、堂内に六体ほどある小さな石仏もすべてご本尊に負けないくらいに表面が摩滅していて、顔などまったく分かりません。それでも何体かは如来像だと分かるし、地蔵菩薩と思われるものもあります。
 ところで、ご本尊のお不動さんには手取川が暴れないように、あるいは手取川が氾濫しても命が無事なように、という願いが込められているようです。今は手取川が氾濫して水害が起きたという話は聞きませんが、ぼくの父親ぐらいの年齢の人は手取川の氾濫を知っているといいます。

 この不動明王の石仏は美術彫刻としての価値も、文化財としての価値も、特に無いようです。でも、そんなことはどうでも良いですね。このお不動さんは手取川のかつて頻繁に氾濫して多くの人命を奪ったことの石に刻まれた記憶です。波切不動は今も手取川を監視してものすごい形相で睨んでいます。そして、そのお不動さんを朝晩お参りしている人がいます。どんな人が何をお参りしているのでしょうか。(平成12年3月17日 メキラ・シンエモン)

写真:メキラ・シンエモン


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