参 考

不動明王

 不動明王はよく知られていますから、どんなお姿か知ってる人も多いでしょう。それにしても、ほとけさんにしては随分と怖い顔をしていていますが、これはお経の中にそう書いてあるためです。また、大日経疏という本の中には描くべき姿を詳細に書いてあって、それによると「髪の毛は縮れて左の肩に垂れ下がり、左目が右目よりも小さく、下の歯で上唇を噛み、下唇が出っ張り、額には皺が波打っている、肥満体で、ひどく怒った顔に作れ」となっていて、かなりひどい顔ですが、どうもこれは昔のインドの奴婢、すなわち賎しい身分の人の姿のようです。それにしては右手に剣を持ち、左手には索、つまり縄を持っている上にあぐらまでかいていて、なんか偉そうです。仏像や仏画を良く見れば顔だって立派なものです。
 この不動明王の姿は時代によって変化していて、平安時代に作られた仏像や仏画では両眼を見開いた忿怒の形相で、怖いながらも整った顔をしています。これは真言密教の不動明王像だそうです。例えば、芥川竜之介の「地獄変」の主人公、絵仏師良秀が描いたと言われる不動明王図の粉本の写真を見ると、顔は怖いけど眇でもないし座ってもいなくて立っています。それが室町時代になると基本通りの醜い顔がポピュラーになるようです。
 ところで、不動明王とはそもそも何者でしょうか。ヒンズー教のシバ神が仏教に取り入れられて、大日如来の使いになったとされています。また、修行の中での誘惑や困難に打ち勝つ力を与えてくれるといいます。「平家物語」の文覚上人が熊野で荒行をする段に、不動明王が八大童子を遣わして、文覚上人の修行を助けるという場面があります。
 また、不動明王は既に偉いほとけさんになっているのに、その願いを達成するためにあえてこんな格好になっているのだともいいます。(メキラ・シンエモン)


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