2  鶴 来

しらやまさん

 しらやまさん、ここは金沢から南の人には初詣でお馴染みの神社で、ぼくなんかも子供の頃から毎年のように行っています。昔は初詣に行くと雪が積もっていましたが、最近はちっとも雪が降らないので、出掛けるのには便利でも雪の積もっていない境内は、気分としては寂しいものを感じてしまいます。
 今年の初詣では、ついでに境内にある宝物館を見てみようと一緒に行った友達と企てました。ところが神社に聞いてみたら、松の内は駄目だということでした。(よく考えてみれば当たり前だったかも知れません)そうなると、ついでのつもりだったのが、なんとしても見てやろうという気になってしまって、左義長が過ぎてから出直そうということになりました。

 七日が過ぎ、十五日も過ぎて、結局、出直しは一月の下旬になりました。上手い具合によく晴れた日で境内は雪が積もっていて、いい感じでした。
 宝物館へは上の駐車場からが便利ですが、そこから境内に入るのは、なんだかそのためだけに行くようだし(実際、その通りなのですが)近すぎて面白くないので、ちょっと大変でも下の表参道を登って行くことにしました。
 参道の石段は雪が積もっていると滑って歩き難いのですが、楽しみもあります。雪に覆われた参道の坂道をゆっくり登って行くと、時折、杉の梢に積もった雪が、風に吹かれて粉になって落ちていくのが見えます。木漏れ日が反射してきらきらと輝いて落ちていく様子を眺めながら、ああ、きれいだな、と思っていると、雪の塊がいきなり頭の上に落ちてきてびっくするのも一興です。
 参道の途中に小さな滝があります。一気に流れ落ちるという滝ではないので水音も静かです。それでも人影の無い雪に覆われた参道にはほかに聞こえる音もなく、あまりに心地よい音なので、思わず立ち止まって聞いていると、なんだか心にしみるものを感じます。

 宝物館は十二月から三月までは休みですが、神社にお願いすれば巫女さんが扉を開けてくれます。宝物館は立派な収蔵庫になっています。靴を脱いで上がりますが、火の気が無く冷蔵庫並みに寒いのにスリッパがありません。足の裏が冷たいので片足を交互に上げて鶴になって見ていました。どうりで冬は休館なわけです。
 展示してある宝物は刀剣、彫刻、工芸、古文書などですが、それらに混じって「神皇正統記」があります。ちゃんとページを開いて展示してあって、漢字仮名まじりだから、読もうと思えば読めなくもなさそうですが、ぼくには読めません。そういえば、小林秀雄が「ぼくは、日本人の書いた歴史のうちで、神皇正統記がいちばん立派な歴史だと思っています。」と何かに書いていました。しらやまさんになんの関係もなさそうなこの本が、どうして宝物館に展示してあるのかというと、これは「白山本」と呼ばれている現存する最古の写本で、この神社に関係した人が1438年に筆写したというものだからです。
 神社らしく狛犬の宝物もあります。宝物館の拝観券の図柄にも使われているこの狛犬は、鎌倉中期に作られた一木造で、奥州の藤原秀衡がここに奉納したものだそうです。立派な顔をした狛犬ですが、この狛犬について拝観券の裏には「作者不詳ではありますが、巨匠運慶の作かとも言われ・・・傑作としてあまりにも有名であります」と勇んで書いてあります。これを読んで、確かに傑作には違いないけれど「あまりにも有名であります」というのはちょっと大袈裟だ、「知られています」ぐらいに留めて置けば良いのに、と思ったのですが、この狛犬は戦前は国宝だったそうで、それが戦後に重要文化財に格下げになってしまったということだから、国宝の剣を差し置いてこの狛犬を拝観券の図柄に使い「あまりにも有名であります」と書いているのは、ちょっとした抗議のつもりなのかも知れません。

 展示されているたくさんの宝物は、どれもしらやまさんならではのものばかりですが、それらが語るしらやまさんの歴史は、そのまま加賀の歴史なんです。(平成12年2月18日 メキラ・シンエモン)


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