21  白山麓

白山七社詣 中宮三社

 本宮から岩本宮までの四つの神社は本宮四社、残りの三つの神社は中宮三社と言われていました。中宮三社で最初に行くのは別宮ですが、その前に何か食べることにして鳥越村の「長助」というそば屋へ寄りました。
 中へ入ると、とっくに昼時は過ぎていたので、客はスキー帰りかと思われる家族連れなど数組だけで、思い思いの場所に陣取ってゾロゾロとそばをすすっています。
 床の間に親鸞と蓮如と思しき肖像の掛軸をかけ、その下に控え目に御鏡を飾った座敷に上がり、外の雪景色が見える窓際の席に座りました。二人とも「一揆そば」というのをたのむと、草餅のてんぷら二個と山菜が入った太いそばが、素焼き風のどんぶりに入って出てきます。そばといっしょに、蒸かしたジャガイモが少しと、何だかよく分からない葉が付いたままの真っ黒な木の実が一個、紅葉した蔦か何かの葉を象った皿に載って付いてきました。
 この黒いものは何だ、と友達に聞くと、知らない、と素っ気なく答えます。そして、友達は、餅が入っているのが「一揆そば」の特徴なんだが、このどんぶりの縁が欠けているところがいかにも「一揆そば」なんだな、と言って、ひとりでしみじみとしています。どうして縁の欠けたどんぶりが「一揆そば」なのか、理由がよく分かりませんでしたが、そう言われてどんぶりをよく見ると、なるほど縁が欠けていて、友達のどんぶりの方がいっそう「一揆そば」でした。そばはうまいそばでした。


別宮(白山別宮神社・鳥越村)

白山別宮神社 そばで暖まったところで、降り頻る雪の中を白山別宮神社へ行きました。境内は雪の積もるに任せてあって、社に雪囲がしてあるだけの、正月らしさは微塵もありません。これでは何も言うことはないなと思っていると、友達は、これはあんまりだ、と呟くように言いました。半分、友達に同感でした。


 次の順番は、去年の暮れに行った佐羅宮(佐羅早松神社)ですが、途中で吹雪になって前がよく見えなくなりました。友達が、ここだ、ここだ、と言うのを、いや、もっと先だ、とぼくが反駁したもんだから、登り口を通り越して「花ゆうゆう」まで行ってしまいました。やっぱりさっきのとこだった、と友達に言われて、ぼくは大いに面目を失ったのでした。引き返そうかと相談しましたが、結局、佐羅早松神社は後にして、先に笥笠中宮神社へ行くことにしました。


中宮(笥笠中宮神社・吉野谷村)

笥笠中宮神社 笥笠中宮神社は中宮温泉スキー場の隣で、山の中だから辺りは雪がかなり積もっています。参道の石段はすっかり雪に隠されていて、上がることができません。横に回ってみると軽四がつけた轍があったので、途中まではその上を辿るようにして社の前まで行きました。
 この様子ではここも正月でも誰も何もしない神社かも知れない、と思っていたら、拝殿には明かりが付いているし鍵も開けてあります。それで、何だかほっとしてしまい、コートの雪を払って今度はぼくも上がり込んでみると、中は森閑として、お神酒の臭いがぷーんと鼻を突きます。火の気がなくて寒いのでそそくさと出てきました。


佐羅宮(佐羅早松神社・吉野谷村)

佐羅早松神社の登り口 最後となった佐羅早松神社へ向かう頃には、もう暗くなりはじめている空から降ってくる雪は横殴りで、強い風に積もっている雪までが舞い上がると行く手を阻みます。
 それでも今度はぼくが口を出さなかったので、登り口を通り越さずに済みましたが、完全に雪に埋もれていて登るにはちょっと勇気がいるような様子です。去年の暮れ、ここの狛犬が薦でぐるぐる巻きにされているのを見た時に、ここは雪に席巻されるのだということを悟るべきだったのかも知れません。雪国の人間らしくもない不見識なことですが、金沢では雪が少ない年が十年以上も続いているから、当たり前のことを忘れていたのでした。
 結局、友達が白山七社詣を思いついた当の神社への参拝はかなわず、崖を見上げて突っ立って、降る雪を顔で受けながら、確かあの辺だったよなぁ、いや、もっと向こうだろう、などと話しているぼくらの横を、スキー帰りの車が次々と忙しなく通り過ぎていきました。(平成13年1月21日 メキラ・シンエモン)


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