20  白山麓

白山七社詣 本宮四社

本宮(古宮公園・鶴来町)

古宮公園  右の建物は加賀一の宮駅

 古宮公園というのは、どうも性格のはっきりしない公園で、ブランコがあったり、猿が飼われている檻があるかと思うと、何なのか良く分からない石碑がいくつも立っていたり、近くにあった神社を遷した祠があったりします。
 そんな寄り合い所帯みたいな公園の一角に、ちょっと立派な土壇があって、ガラスで作った三角屋根が被せてあります。この中には本宮址を発掘した時に出た土器が、半ば土に埋まった形で入っていて、ガラスの被いを通して見られるようになっています。
 しかし、今日はすっぽり雪を被っていて中は見えません。中に何があるのかは知っているのだからと、ぼくがそのままに行き過ぎようとしたら、友達は手でガラスに積もった雪を鋤かして、中を覗き込もうとしています。白山七社詣を思い付いただけあって友達は熱心です。
 何を今更、と思い、でも、ついでだから、と思い直して、ぼくも中を覗き込みました。半分土に埋まったかわらけを見ていたら、雪に埋もれた本宮跡が、何だか頗る付きにうらぶれて思えてきて、ここにあったという本宮の姿はどんな風だったんだろう、と知らず識らず考えていました。友達がガラスの雪を除けて中を覗き込んでいたのは、ただ熱心だったのではなくて、当時の様子を伝えるものが何もない中で、かつての本宮を少しでも偲ぼうとしていたのかも知れません。
 金沢では強く吹いていた風が、鶴来ではあるかなしかの微風で、見上げればところどころ青空が見えています。しかし、北の空は雪雲が厚く被っていて、その下はどうも雪が降っているようです。それがこちら向かって動いてきています。


三宮(白山比盗_社・鶴来町)

表参道 雪の積もった表参道を登って行くと、途中に誰が作ったのか直径60センチほどの雪玉が転がっています。子供のいたずらだろうと思ったのですが、まわりを見ても雪玉を転がした跡がありません。妙だなぁ、と思いましたが、こんなところに雪玉があっては邪魔だろうと脇の溝へ落としたら、今度は溝の流れを堰き止めてしまって水が溢れてきました。正月早々要らんことをしたかなぁ、と思って見ていると、そのうち雪玉は崩れて粉々になって流れていきました。
 登りながら前を見上げれば、ぼくらの前を行く人も上から下りてくる人もあまりありません。振り返って下を見下ろすと、後から登ってくる人はわずかです。上の駐車場から入る人が多いからだとしても少なすぎるように思えて、四日ともなると人出は少ないのだろうと思いながら門を潜ると、まばらと言うほどではないにしろ、やはり参拝者は少な目です。
焚き火に当たる人 それでも、お参りを済ませて境内を見渡せば、一心に祈っている人、おみくじを引いている人、それを境内の木の枝に結びつけている人、お守りやお札、破魔矢などを買い求めている人、そういうことが済んだ人達が焚き火を丸く囲んで、手をかざしたり尻を向けたりして体を暖めているという、いつもながらの初詣の光景があります。
 帰ろうとすると、駐車場の方からがやがやと大勢の人が入ってきました。それが、ちゃんと門の方へ回る人は少なく、社務所の脇を通ってくる人ばかりです。帰りも表参道の坂を下りていくと空は厚い雲に覆われはじめていました。


金剣宮(鶴来町)

金剣宮 不動滝のところから石段を登って、神社前の県道を潜る地下道を通って境内へ入ると、辺りはひっそりとはしていますが拝殿には明かりが入っていて、中を見ると火のついた石油ストーブまで置いてあるので、やはり正月の雰囲気です。
 お参りした後、友達はストーブがあるからと拝殿に上り込みましたが、ぼくは何だか気が引けたので外にいると、ぽつりぽつりと家族連れがやって静かにお参りしていきました。
 友達が満足げな顔をして拝殿から出てきたので、来た道を戻ろうとすると、すっかり雲に覆われた空からとうとう雪が降りはじめました。地下道を抜ける頃には、もう吹雪になっていました。


岩本宮(岩本神社・辰口町)

岩本神社 ここにはこれまで行ったことがなかったので、地図を頼りに行きました。この神社は手取川の西岸、岩本という集落にあります。天狗橋を渡って右へ曲がり一本道をしばらく行くと、岩本と書いた辰口町独特の大きな案内板があって、その横に岩根宮と書いた小さな緑の標識がありました。これだろうと見当を付けてそっちへ入っていくと、少し高くなったところに岩本神社がありました。岩本宮の跡なのですが、案内板の説明には「史跡 岩根宮」と書いてあります。
 雪のちらつく広場のような境内の奥に、杉木立を背にして小さな社が立っています。雪囲はなくて社名を書いた額の下に、普通の家の玄関に掛けるような注連飾りが掛けてありました。お参りして境内を振り返れば、雪の上にはぼくらの付けた足跡があるばかりで寂しい限りです。それでも元旦には近くの人がお参りしたのだろうかと思っていると、また雪が激しくなってきて、ぼくらの足跡は段々に薄くなっていきました。(平成13年1月21日 メキラ・シンエモン)


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