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嫌われ者の微笑み ワルナスビ

 暑い盛りの7〜9月に咲く花です。色は白または薄紫で形はソロモンの星、大きさは3センチ足らずと小さいから、そこそこかわいい。葉は大きくて縁の切れ込みが深く、茎には鋭いトゲがあります。ワルナスビという名前がついています。悪い茄子の意味です。
 よりによって花の名前に、またずいぶんな名前を考えたついたもんですが、きっと食べられないナスビだからこんな名前になったのか、それともトゲがあるからなのか、でも、実が食用にならなかったりトゲがあったりする花は多いんだから、悪いナスビだなんて、ちょっと言い過ぎなのでは・・・、と思うかもしれませんが、それがそうでもなく・・・、いや、やはり言い過ぎでしょう。

 ワルナスビはナス科ナス属の多年草です。道端と言わず空地と言わず、日本中どこにでも生えるといいますが、そう頻繁に目にすることはありません。人が見つけ次第、ひと株も残さず抜いてしまうためです。もう絶対に生えてこないようにと。

 名付けといい仕打ちといい、ずいぶんと嫌われたものですが、どうしてそこまで嫌われ者なのかと言うと、植物図鑑の解説を読んでみれば、この花は北米原産の外来種、つまり帰化植物だそうで、なんの役にも立たないばかりか、他の植物に害を与えるらしいのです。こういう草を強害草と呼ぶそうですが、繁殖力が強くて根で増えるので、まさに根こそぎにしないと駆除できないという厄介者なんだそうです。そう聞けば、そりゃ嫌われ者なわけだ、ワルナスビなんていう名を頂戴するのもむりない、と"言い過ぎ"から"御尤も"に宗旨替えしたくなります。

 ところが、このワルナスビの花はとんでもなくおもしろい、あるいは心癒される花なんです。でも、この花を知っている人のほとんどが、そのことに気が付いていないみたいです。あまりに小さいから目で見ただけではわからないんです。虫眼鏡で見るか、写真に撮って10倍ぐらいに大きくして見て漸くわかります。ぼくも撮った写真を見て気が付きました。しかも、花が咲いていればいつでもそうだ、というわけではないのです。写真は2017年8月27日、金沢の大乗寺丘陵公園

 花の真ん中、めしべの周りに輪になって集まっている5本の葯(やく)の先端が、よく見ると微笑んでいるんです。まるで5人で輪になって空を見上げて楽しそうに笑っているみたいです。

 葯は雄蕊(ゆうずい:おしべ)の先に付いている花粉の入った袋のことですが、ナスの仲間では基部から延びる、バナナのような細長い形をしていて色まで黄色です。そして葯の先端に茶色の弧が作る模様が現れる時期があります。
 ワルナスビではその模様が微笑んでいる顔に見えます。月のウサギといっしょで、いわゆるパレイドリア効果なんですが、「ニャンちゅう」みたいな愛嬌たっぷりの癒し系の笑顔がめしべを囲んで五つです。
 弧がつながってハートの形になっていることもあります。ちょっと丸っこいからハートと言うのは少しきついかもしれませんが、冥王星の模様をハートと見る勇気があれば、これも立派にハートです。ハートではなくてゼロがふたつくっついた00になっていることもあります。弧が作る模様が、微笑み→ハート→00の順に変化するみたいです。

 「ニャンちゅう」はNHKのEテレに出てくるネコのキャラクターで、ネズミみたいな耳のあるフード付きの服を着ている、ちょっと変わったネコです。なんでそんな服を着ているのかというと、ネズミに成りすまして油断させておいて捕まえようという魂胆ではなくて、ネズミの気持がわかるようになりたいからだというんだから、かわいいじゃないですか。声はガラガラですけど。
 冥王星の表面にはハート型の模様が見えていて、NASAの惑星探査機「ニューホライズンズ」が撮って地球に送ってきた写真が話題になりました。もっとも模様がハートの形に見えるためには、少なからぬ努力がいるとぼくは思いますが。

 下の写真は大乗寺丘陵公園に咲いていたワルナスビの花です。これを見れば、ねっ、納得でしょう。

2017年8月27日
左はハートで、右ははっきり見えませんが00です。2018年9月2日



 ワルナスビは嫌われ者ですが、花に悪気などあろうはずがありません。外来種だから日本に連れてこられて、なんとかして生きのびようとしているだけです。日本はたまたま適応できる土地だったのか、元々どこででも生きていける強さがあったのか・・・、なんでしょうね。ただ、歓迎してはもらえませんでした。(2019年6月1日 メキラ・シンエモン)


写真:メキラ・シンエモン



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