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フィンランドの「空の真珠」


 ムーミンの最新作が近くNHKBS4Kで放送されるそうです。それを紹介している番組があったのでちょっと見てみたら,、CGで制作されたきれいなアニメで、とてもよくできていました。でも、昔の手書きの方が良かったみたいです。

 去年だったか一昨年(おととし)だったか、サンダーバードのCGで制作された新シリーズがNHKで放送されました。ぼくはJR北陸線のサンダーバード4号に乗ってもただちにゴードンを思い浮かべるくらいのサンダーバードファンだから、もちろんその全放送を見ました。ちなみにぼくらの世代にはサンダーバードファンが多いらしく、オーケストラ指揮者の広上淳一さんなどもそうで、こどものころお風呂の中で4号のプラ模型で2時間も遊んでのぼせてぶっ倒れたと、2年ほど前に放送されたN響のコンサートで、あのこどもっぽい顔に満面の笑みを浮かべて、いかにも嬉しそうにその熱い思いを語っていました。
 で、CGのサンダーバードですが、放送を見ながら、おもしろいんだけど、どうもどこか物足りない、これはどうしてもマリオネットじゃないとダメだ、と思いました。CGで制作したサンダーバードはよくできているのに、絵に奥行きが感じられなくて、とても薄っぺらな印象だったんです。上から糸やピアノ線で吊るした人形と模型を人が手で操るという、制限された表現手法で本物らしく見せていることに感動し、わくわくする、それがサンダーバードの魅力だったことに、このときはじめて気が付いたのでした。
 おもちゃだとはっきりわかっているから、ぎこちなかったり不自然だったりしても受け入れられるし、むしろそこに味があってというか、暖かみのようなものがあっておもしろかったんです。CGの絵はどこか冷たい感じで、映像がぎこちなかったり不自然だったりすると、すかさずがっかりするみたいです。

 同じようなことがCGのムーミンにも言えるのかもしれません。手書きのアニメにはなにか奥深いものがあるみたいです。液晶モニターの中の架空の空間で巧みに作る実体のない造形は、ずいぶんと手間暇掛けているようですが、動く映像になってもやはり実体がないということなのか、あるいはSNSの世界と同じで、CG作品にはパソコンの厚み分の奥行しかないということなんでしょうか。


 アニメの話をしようというのではありません。ましてCG批判ではありません。フィンランドと聞いてなにを思い浮かべるか、という話をしたいのです。
 フィンランドから連想することは、多くの人はムーミン、そして、世界で一番幸福な国、でしょう。NHKの番組でもそう言っていました。普通はそうです。では、普通ではない場合、ほかにはどんなことが・・・。

 もし、フィンランドと言えばユッカ=ペッカ・サラステ、サカリ・オラモですよ、と答えた人がいれば、その人は一応クラシックファンです。シベリウスと答えたら一応でもクラシックファンにはなれません。当たり前すぎます。さらに、日本でも人気のエストニア人の指揮者パーヴォ・ヤルヴィのパーヴォという名前は、やはり名指揮者として知られるお父さんのネーメ・ヤルヴィが、尊敬するフィンランドの往年のマエストロ、パーヴォ・ベルグルンドの名前を息子に付けたのだ、と付け加えて言えば、ちょっと知ったかぶりの感じです。

 もし、フィンランドと言えばBT−42と継続高校でしょ、と答えた人がいれば、その人には用心しないといけません。手に負えない戦車ファンだからで・・・、いや、ガールズ&パンツァーのファンに違いなく、そのなかには根っからの戦車ファンが必ずいるはず、と言うべきでしょう。ガールズ&パンツァーは、戦車道という女子の伝統的嗜みがあって、女子高生が戦車戦をするというムチャクチャな話ながら、戦車の絵は極めて正確に描かれていて、戦車の機動にはちょっと問題がありそうですが、軍事の専門家も喜んで見ているらしいアニメで、略してガルパンと呼んでいるみたいです。
 その人がさらに続けて、BT−42はガルパン劇場版に登場する第二次大戦中にフィンランド軍が使った実在の戦車です、継続高校というのはこのBT−42を使う石川県にある高校で、学園艦は砕氷艦の白山丸だったと言われています、その3人のクルーはムーミンのキャラクターをイメージしていて、隊長のミカはスナフキン、そのそばにいつもいるアキはムーミン、BT−42を操縦するミッコはミイだとはっきりわかります、とでも解説すれば、いや立派なガールズ&パンツァーのファンですね、と言ってもらえるのかというと、どうしてどうして、この程度では初心者にも見てもらえないようです。

 継続高校はもちろん架空で、そんな高校は石川にはありませんが、この変な名前は、第二次大戦中にフィンランドとソ連が戦った「継続戦争」に由来するんでしょう、詳しくは知りませんが。また、BT−42という戦車はフィンランドが鹵獲したソ連のBT戦車にイギリス製の榴弾砲を載せた、だから正確には戦車じゃなくて突撃砲と呼ばれる自走砲の一種です。(「軍事研究」2017年8月号)
 劇中で履帯つまりキャタピラなしで走り回るシーンがありますが、これはアニメの勝手な設定とも言えず、BT戦車はウォルター・クリスティーというアメリカの老エンジニアが設計したT−3という戦車を元にしていて、このクリスティー戦車は独創的なサスペンション機構を備え、駆動輪から履帯への動力伝達は摩擦力のみで歯車を介さず、履帯を外して転輪だけでも走行可能で時速75キロという高速が出せました。(「世界の戦車」平凡社カラー新書46)
 ぼくは飛行機ファンで戦車ファンではないので、履帯なしの走行という、そんな芸当までBT戦車に受け継がれていたのかどうかは知りませんが、ノモンハン事件のとき撮影されたBT−7戦車の映像(NHKスペシャル「ノモンハン 責任なき戦い」)を見ると、駆動輪は歯車にはなっていなかったし、また、アニメが作られる遥か前にタミヤからBT−42のキットが1/35で出ていて、キットを買っていないので写真を見てですが、やはり駆動輪は歯車ではないので、あるいはBT−42は履帯なしの走行ができたのかもしれません。タミヤの組み立て説明書の解説は懇切丁寧とても詳しいので、BT−42が履帯なしで走行できたかどうかも書いてありそうですが、そのためにわざわざキットを買おうという熱意はないし、あったとしても、女房の許可を取るなんていう恐ろしいまねをできるはずがありません。
 (なら、Webサイトで調べればすぐにわかるから、そうすればいいようなもんですが、そんな味気なく素っ気ないことはしないところに「通りがかりの者です」の価値があります。インターネットのHPなんだからちょっと矛盾しているようですが・・・。)

 ちなみに、BT−42の実物がフィランドのパロラというところにある戦車博物館に展示されていて、それを見るために日本からガルパンファンが大挙して押しかけ、閉鎖寸前に追い込まれていたこの博物館を資金面で応援したそうで、タミヤのキットもガルパン劇場版が上映されるやいなや店頭から姿を消したといいます。(「軍事研究」2017年8月号)
 アニメファンというのは・・・、実に恐ろしい。

 なんだ、やっぱりアニメの話じゃないか、それも、かなりオタクっほいんじゃないの、と思うかもしれませんが、ついいつもの悪い癖で書きすぎましたが、ぼくはどの分野に関してもオタクではなくて、飛行機プラ模型の極めて控えめなファンです。とにかく、アニメの話ではなくて、フィンランドと聞いてなにを思い浮かべるか、という話をしています。
 でも、どうもこの先不安だね、ついていけるのかなー、という人は、ここで読むのを止めておくことをお勧めします。自分の書いているものをこの先は読まないほうがいいなんて勧めるのは我ながら珍しいと思いますが、どうなるか自分でもわからないからで、ただ、ここからが本題になるのは確かです。タイトルにある「空の真珠」が気になるようでしたら、ここは覚悟を決めて我慢の続く限り勇気を出して頑張って続きを読みましょう。

 ぼくら飛行機好きならこの問い、フィンランドと聞いてなにを連想するか、にどう答えるんでしょうか。ブリュースターB−239です、と答えれば筋金入りです。飛行機は好きですがそんな飛行機は知らないんだけど、という人がいたら、F2Aバッファローのことです、と言えばわかるでしょうか。ブリュースターF2Aバッファローすらわからないのなら、”飛行機好き”は、ただちに引っ込めるべき・・・でしょうね。

 フィンランドではこのブリュースターB−239を「空の真珠」と呼んでいました。

 そもそも、日本の飛行機好きには、特にプラ模型を作るような人には、昔からフィンランド贔屓が多いようです。50年近くも昔「航空情報」という雑誌に連載された、中山雅洋という人の「森と湖と空」という戦争実話の影響なんだろうと思いますが、まあ、判官贔屓なんでしょうね、これは。日本人らしいこと。
 (判官贔屓は「ほうがんびいき」と読むのが正しいようですが、「はんがんびいき」でもいいみたいです、念のため。また「森と湖と空」は「北欧空戦史」という題名で本になり朝日ソノラマの文庫に入っていましたが、後に学研M文庫に移り、今は絶版になっているようです。ちなみに、昔は「航空情報」と「航空ファン」には飛行機プラ模型の詳細な制作記事が載っていて、「モデルアート」や「ホビージャパン」などのプラ模型専門誌が創刊したあとも暫くは、ぼくら飛行機プラ模型少年の教科書でした。「航空情報」の方が硬い感じでしたが、航空機を設計している人なども記事を書いていたし「プラモガイド」という別冊まで出ていて、せっせと読んだもんです。写真はフィンランド空軍のブリュースターB−239の模型です。アオシマの1/72のF2A−2(B−339)からカウリングや排気管などを改造して細部を手直ししてあります。35年ほども前に作ったものですが、朝日ソノラマの「北欧空戦史」を背景に撮りました。どう見ても真珠には見えないでしょう。

B-239



 では、そろそろ、冬戦争のあたりから、ぼちぼち始めましょうか。と思ったんですが、前置きが長くなってしまったし、少々疲れたので、ぼちぼち始めるのは、次回にしようと思います。(2019年5月10日 メキラ・シンエモン)

模型制作と写真:メキラ・シンエモン



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