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消えたヒヨドリジョウゴ

 今年は"三年ぶり"が流行っています。コロナ禍でおととしから二年続けて中止になったイベントの類が行動の制限が緩和された今年は開催できるというのでどんなことでもニュースに出るときは必ず「三年ぶりに」や「三年ぶりの」「三年ぶりで」が接頭語的に付いてきます。
 行動の制限が緩くなったその代わりでもあるかのように病院の受診が制限されているようですというのは、発熱外来はなかなか予約が取れないというのです。何日もかけて何度も電話してやっと診てもらえて結果が陽性だったからさっそく治療をと思ったら残念でしたもう5日過ぎているのでお薬は出ませんということが多いと聞きました。
 ワクチン接種またしかり。ぼくは十日ほど前に4回目のワクチンを接種しました。過去3回と同じ掛かり付けの先生の医院でファイザーのワクチンを打ちましたが、なぜファイザーなのかというと先生はどうも頑固らしく、大きな病院で医者をしている跡取りの息子さんのやはりどこかの病院で医者をしているお嫁さん、だから女医さんで時々舅さんの代わりに診察に出ている、の話によると、院長先生はファイザーに限ると言って譲らないんですよ、ということなんですが、それがどうもファイザーは供給量が少ないらしく注文してもきっちり入ってこないとかで、ぼくの予約は接種券が来て間髪を入れずの電話だったのに滑り込みでセーフでした。
 しかし副反応が辛かった。三回目よりひどかった。接種した日の夜から腕があげられないほどに痛くなり熱も出て解熱剤を飲みましたが翌々日の朝までだるさが続き、元来の不活発な性格に輪をかけてなんにもする気になりませんでした。月末からワクチンはオミクロン株対応になるそうですが騒々しいことです。
 それはそうと今月のはじめにぼくだけの"三年ぶり"がありました。いつものウォーキング途中に三年ぶりでヒヨドリジョウゴを見つけたのです。それもコロナに関係があるのかって、そんなわけありません、ただの草ですから。


ヒヨドリジョウゴ
 ヒヨドリジョウゴはナス科ナス属の蔓性の多年草で在来種です。漢字では鵯上戸と書きます。別にホロシ(保呂之)という名前も付いています。8月から9月に林の縁、つまり木の生えているところと生えていないところの境で、五枚の細い花びらの反りあがった小さく可憐な白い花が咲き、萎むと丸い緑の実となり秋にはきれいな朱に色づきます。同じ環境に生える花も実もそっくりなヤマホロシという種類がありますが、ヒヨドリジョウゴが細かな柔らかい腺毛が全体に生えているのに対しこちらは毛がありません。また葉の形が違うマルバノホロシ(花は白)、オオマルバノホロシ(花は紫)という仲間もいます。そんなこと知っていても・・・と言うのですか、そんなことこそが知っているとおもしろいんですよ。

ヒヨドリジョウゴ 花 2022年9月3日 野田山

 名前にあるヒヨドリはもちろん鳥のヒヨドリです。卑しい鳥と漢字は書かれてしまったこの鳥はスズメの倍ほどの大きさですが、姿にこれといった目立つ特徴はなく色もやや茶色がかった地味な灰色なので公園の木に止まっていてもきっと気が付かないでしょうね。上戸は酒飲みのことだからヒヨドリがこの草の実をたくさん食べて酔っぱらうのかと思ったら、そこまで好んで食べることはないそうです。ただこの実にはソラニンというジャガイモの新芽と同じ毒があってヒヨドリは食べても大丈夫なんだから、なるほどヒヨドリはこの草に上戸だと言えるのかもしれません。この命名はなんとなく見た目にも相応ですが、いったいだれがこんな名前を考えたんでしょう。きっと呑兵衛の仕業で、つまり酔っていたのは鳥ではなくて名付けた人間の方で、そのきれいな朱色の実を一杯機嫌で眺めていたらたまたまヒヨドリが飛んできてついばむのを見て、ヒヨドリの好物か、と思って付けた名前だったのかもしれません。いつもの妄想でした。ちなみに別名のホロシについては意味不明のようです。

紫陽花は哀れ、断腸花はやや遅れ、彼岸花は普通
 今年はあんまり早くに梅雨が明けてしまって大乗寺丘陵公園の紫陽花もちゃんと花が咲き揃う前に枯れていました。その梅雨は北陸地方ではいつ明けたのか今年はわからないとずっとあとになって気象台が言うのだから、それなら梅雨そのものがなかったんじゃないの、という気もして、そうなると紫陽花が哀れで、去年、梅雨も明けてカンカン照りの八月の萎れた紫陽花もいいもんだと記事に書きましたが、あれはずいぶんのんきな物言いだった、しっかり花が咲いてこその萎れた紫陽花の趣だったか、と知りました。散り始めた桜、雲に隠れる月にも趣が・・・という御託は完全な姿を観たあとでというのが条件のようです、ねぇ、兼好さん。(徒然草第137段参照)

アジサイ 2022年7月4日 大乗寺丘陵公園 オオマルバノホロシ 2022年9月3日 野田山

 今年は早くやってきた夏の暑さをこんなことでも思っていたのですが、秋海棠(しゅうかいどう:断腸花)も今年はいつもより夏が暑かった分だけ遅れて野田山では9月も半ばになって漸く雄花が開きはじめました。でも彼岸花は真夏日が続いて一向に涼しくならなくてもいつも通りで、おとといだったか家の近くの歩道の植え込みで咲いているのを見ました。秋海棠は夏が暑くて長かったから咲くのが遅れたのなら、残暑厳しい中で普通に咲いた彼岸花は見かけの派手さそのものに頑固です。それでも、こうしてまだまだ暑いとはいえ、旧盆を境にキリギリス優勢からコオロギ優勢に変わっていた虫の声はこのごろすっかりコオロギだけになってしまったのをみればちゃんと季節は巡っているようです。旧盆ってなにかって、金沢のお盆には新盆と旧盆があって新盆は7月15日で旧盆は8月15日です。旧市街ではお正月が新暦になったのに合わせてお盆も新暦に変えたのです。二回もすると考えるか、分散させていると考えるか・・・。

シュウカイドウ 雄花 2022年9月14日 野田山 ヒガンバナ 2022年9月16日 長坂

三年ぶりのヒヨドリジョウゴ
 ぼくがヒヨドリジョウゴを知ったのは22年も前のことで、鶴来の石川県林業試験所、つまり樹木公園の遊歩道を歩いていたら向こうから歩いてきた見ず知らずのおばさんがすれ違い際にいきなり、あっちでヒヨドリジョウゴの真っ赤な実がきれいですよ、と教えてくれたことが契機でした。そのとき、そうですか、どうもありがとう、と適当に合わせるように返事したのはいうまでもありません。しばらく行くと一番奥の貯水槽の近くで目より少し高いところに鈴なりになった赤い実の房がなにかの木の枝から垂れ下がっていて、きっとこれだな、なるほどきれいな、と思って、しかし念のため後で調べようと写真を撮りました。

ヒヨドリジョウゴ 実 2000年10月11日 樹木公園 ヒヨドリジョウゴ 花 2002年9月16日 野田山

 花は8月から9月だと知って野田山に登るときは気をつけて見るようにしていたら二年ほどして前田家墓地の近くで見つけました。今は生えている場所を四か所ほど知っていますが、そのうちの一か所でおととしから姿が見えなくなっていたのが今年三年ぶりに現れました。それで三年ぶりのヒヨドリジョウゴなんです。

ヒヨドリジョウゴ 実 2019年10月3日 野田山

 その場所は実を言うと熟した朱色の実を三年前に見つけたのが最初でした。そこは通る頻度が比較的低い道で崖の上から下がる朱色の実がよく目立っていました。爾来、花が咲いたかというころには時々通るようにしていましたが木の枝が茂っていて見づらいこともあってかそのあとはずっと見つけられないでいて、今月のはじめに三年目にしてやっと花が付いているのを見つけたのです。
 それから半月ほど経った日の朝、ヒヨドリジョウゴが突然のように消えていました。生えていたあたりの草と言わず木と言わずすっかり刈られていたんです。バカな、と正直思いました。野田山には金沢市の大規模な墓地があります。林の墓地に近いところは造園業者が定期的に伸びすぎた木の枝を掃い茂った草を刈ります。しかしそれで三年前に見つけおととしと去年は見つけられなかったわけがわかりました。そうです、三年前はなにかの理由でヒヨドリジョウゴの実が朱色になるころになっても作業していなかったのです。
 この日まず気づいたのは崖下に片付けもせずに積んであった刈られた枝や草でした。さては・・・と慌てて崖を見上げればきれいさっぱりもうなにもありません。がっかりして再び視線を下に落とすとヒヨドリジョウゴの蔓が絡みついていたのはハリエンジュ(ニセアカシア)の枝でした。


 造園業というのはあるいは悲しい職業かもしれませんね。時としてきれいに咲く花を刈ってしまわねばなりません。仕事だからと割りきるのか、それとも無感覚、無関心・・・、いづれにしても、余計なお世話ですが、悲しい仕事に思えます。刈られてしまったヒヨドリジョウゴは多年草だから根が残っている限り来年もまた生えてきます。(2022年9月17日 メキラ・シンエモン)



写真撮影:メキラ・シンエモン



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