参 考

海幸彦、山幸彦

 この話はよく知られています。海幸彦山幸彦の二人の神様は、本名をそれぞれホノスソリノミコト、ヒコホホデミノミコトといいます。二人ともニニギノミコトの息子です。二人の母親はコノハナサクヤヒメ(木花開耶姫)といって、オオヤマツミノカミ(山の神様)の娘です。つまり、二人は天の神と国つ神(地上系統の神様)の間に産まれた神様でした。

 天から地上に降りたニニギは宮殿も完成して落ち着いたある日、とある浜辺で一人の美しい娘(コノハナサクヤヒメ)に出会います。ニニギが一目惚れして求婚すると、娘は、私はオオヤマツミノカミの娘です。父に尋ねてください、と言います。更に、姉がいます、と付け加えます。そこで、ニニギは娘の父親に、おまえの娘を見た、嫁に欲しい、と言います。
 娘の父親は相手が天孫のニニギですからこの縁談を喜び、気を利かしてか、勘違いしてか、それとも何か企んでか、姉も一緒にどうぞと、娘を二人ともニニギの元に送ります。ところが、姉の方は見るに耐えない不美人だったので、ニニギは妹だけを留めて姉を帰してしまいます。ニニギは姉から恨みを買ったことは言うまでもありません。

 ニニギと夫婦になったコノハナサクヤヒメは兄弟を産みます。兄が海幸彦、弟が山幸彦です。その名の通り、兄は海での漁が、弟は山での狩猟が得意でした。ある時、兄弟は試しに道具を交換してみようということになり、兄は山へ、弟は海へ行きます。しかし、二人ともさっぱり獲物がありません。加えて、山幸彦は兄に借りた釣針を失ってしまいます。それを聞いた兄はたいへん怒って、どうしても自分の釣針を返せと弟を責めます。
 仕方なく山幸彦は釣針を探しに再び海へ行きます。海底で山幸彦は、井戸の水を汲んでいた海神の娘トヨタマヒメと出会い結婚します。失った兄の釣針は鯛(あるいは鯔)の口から出てきます。こうして山幸彦は海神の宮に三年もいましたが、地上が恋しくなり元の宮に帰ることにします。そこでトヨタマヒメ(あるいは海神)は、戻れば兄と争いになることを予測して、釣針を兄に返す時にこうしなさい、と山幸彦にあることを言い含めて、釣針と一緒に海の水を自由に操ることのできる一対の玉を持たせます。
 地上に戻った山幸彦は、トヨタマヒメに言われた通りに呪文のようなものを言って、釣針を後に投げて兄に返します。その後も言い含められた通りにします。この後次第に兄弟二人の関係は悪化して、遂に争いとなりますが、山幸彦はトヨタマヒメにもらった玉の威力で兄を服従させてしまいます。

 この後、トヨタマヒメは山幸彦の息子を産みます。これがウガヤフキアエズノミコトで、母の妹、すなわち叔母に当たるタマヨリヒメとの間に、後の神武天皇(初代天皇)が産まれます。ちなみに日本書紀では、神武天皇の本名はヒコホホデミノミコトとなっていて、祖父である山幸彦と同じです。


 ところで、このようにして弟が兄に取って代わって嫡流をなしていくというこの話は、旧約聖書創世記にあるエサウ、ヤコブ兄弟の話に、どこか似ているような気もします。(メキラ・シンエモン)
 


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