8  吉野谷村

雪解け頃の白山麓

 4月の上旬、人は皆、花見に出かけるというのに、雪解けの頃の白山麓はどんなだろうかと思って吉野谷村の中宮へ行ってみることにしました。

尾添川 中宮は白山スーパー林道へ行く道の途中です。金沢から国道157号線を白峰方向へ向かって走ります。鶴来、河内村と過ぎて吉野谷村に入り、しばらく行って木滑という辺りの濁澄橋を渡った瀬戸野というところまで来ると道は左右に分かれます。走ってきた国道157号線は右で、そちらを行けば手取川ダム、そして白峰です。中宮へは左の国道360号線を、渓谷に沿って登って行きます。
 道路左側の谷あいを流れる川は、手取川ではなく支流の尾添川(おぞうがわ)という川で、吉野谷村と尾口村の境を流れています。こちら側は尾口村で吉野谷村は対岸になります。
 尾添川が作る谷は完全なV字型ですが、この時期の渓谷の風景は春独特のもので、両側の山には雪解け水が作る小さな流れがいく筋も出来ています。道路脇にスペースがあるところを見つけては車を止めて谷を覗き込むと、もうほとんど雪が解けた山肌を、一気に下る流れが勢いよく尾添川に注いでいるのが見えます。
中宮大橋 そんなことを繰り返して走っているうちに、スキー場が左に見えてきます。スキー場の下の集落が中宮です。尾添川に架かる中宮大橋という、橋脚が無く両端だけで支えている大きな橋を渡ります。ここでも車から降りて橋から下を覗き込んでみると、下はちょっと足がすくむような渓谷です。渓流をよく見ることができるのは、だいたいこの辺りまでで、ここから先は道路と尾添川が離れてしまいます。
 写真は中宮大橋で、この先の山あいをぬうようにして10キロほど登って行くと一里野、そして白山スーパー林道に至ります。

土手のフキノトウ 中宮に着いたのは、もう昼頃でした。スキー場のゲレンデは頂上付近に雪を残していますが、下の方はすっかり地肌をあらわしています。駐車場には一台の車もありません。車を止めてその辺りをぶらぶらしてみても小鳥の声が聞こえるばかりで、ひっそりとしてさすがに人の姿はどこにも見えません。土手にはフキノトウがたくさん出ているのが見えます。
 スキーシーズンが終わっても、食事を出してくれるところがあるのだろうか、と思って歩いていると、ありがたいことに、白山麓らしく豆腐料理の小奇麗な店があったので入ってみました。
中央にわずかに白山の頂上が見える 東向きの窓側の席に座り、そこから白山の方を望むと、よく晴れた空を背景に、遠くに見える山の端から白山の頂上が飛び出たように、少しだけ覗いているのが見えます。(写真中央やや右寄り)
 てんぷら定食というのを頼んでみると、豆腐と山菜のてんぷらが出てきました。山菜の中に、さっき土手で見かけたフキノトウも入っています。口に入れるとフキノトウのかすかな香りとほろ苦い味が春を感じさせてくれます。味噌汁もやっぱり豆腐とワカメです。ほかに、そぼろ豆腐と薄く味付けしたおからが付いていて、豆腐ばかりですが、これが食べてみると実においしいものでした。
 平地より少し遅れて春が訪れた、しんみりとさせる雪解けの白山麓でした。(平成12年4月15日 メキラ・シンエモン)
 


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