30  樹木公園

雪折れ桜

 兼六園の「雪づり」は木の丈よりもはるかに高い支柱の頂点から、ほとんどすべての枝の端に張られた何十本もの縄が、放射線状に広がっている様子がたいへん粋で美しく、大概の人はそのあまりの美しさに眩惑され、それが水分を多く含んだ北陸の重い雪で木が折れてしまわないようにと、荒縄で枝を吊り上げている無粋(役目を考えれば)な仕掛けであることを忘れて見とれています。
 ところが「雪づり」がなくて雪の重みで折れてしまった哀れな木を見るなら、逆に「雪づり」が樹木を雪害から守るための保護手段(おそらく唯一の有効な)であることを確認することになるでしょう。その時、折れた木はいっそう痛ましい眺めとなって目に映ります。

雪折れ桜 2月下旬 今年の冬、兼六園のように「雪づり」をしてもらえない樹木公園(鶴来町)の木は、雪の重みで何本も折れてしまいました。折れた木の数の多さもさることながら、そのありさまがなんとも悲惨で、枝がポッキリいった、なんていうなまやさしいものではなく、枝はおろか幹までが、あるいは縦に裂けて垂れ下がり、あるいは完全に折れて地面に転がると、さながら雷にでも打たれたような無残な姿に変わり果てています。今年は雪が少なかったのに、こんなことになったのは、いつもよりうんと重い雪だったんでしょうか。
折れた兼六園菊桜 しかし、いくら水分を多く含んだ雪が重いといっても雪は雪です。折れた木を目の当たりにしても、雪が木を折ってしまうとは、ちょっと信じがたい気がします。信じがたくても、か細い枝ならともかく、大人が二三人ぶら下がっても折れそうにもない、太い枝や幹まで折ってしまうのだから、木に積もる雪というのは見た目よりもよほど多く、かなりの重量になるのでしょう。これは勝手な想像ですが、風が吹けば枝の雪も飛び散ってしまいそうで、水分が多い雪は重くて簡単には飛び散らず、逆に凍っていっそうしっかりと付着してしまい、そこへ次々と雪が降り積もると、やがて木は雪の重みに耐えきれずに折れてしまう、ということはありそうな気がします。
 その折れてしまった木をよく見れば、桜ばかりがひどく折れています。桜はもちろん葉を落としています。もし葉が付いていればより多くの雪が付着して、もっと大変なことになっているはずです。けだし桜は大きく枝を張るのに堅くて弾力性に乏しいから、雪が降る前に葉を落とすことで精一杯身を守っているのでしょう。それでも今年ここでたくさんの桜が折れてしまったのは、重い雪のほかにも何かの要因が加わっていたのかも知れません。
雪折れ桜 3月中旬 一方、杉には桜のような大きな被害は見えません。葉の付いた細かな枝が折れて地面に散らばっているだけです。杉は弾力性があるうえに枝の張り具合も控えめで、加えて小枝は圧力が掛かりすぎるとすぐに折れるようにできているらしく、たくさんの葉を付けたままでも雪から大きなダメージを受けずにすむようになっているようです。
 あれやこれや、木は木なりに自然の中で上手くやっているということでしょう。しかし、ひどく折れてしまった枝や幹はどうにもなりません。木が元の姿を取り戻すことは何年たってもありえません。ましてここの木は管理されている木であってみれば、折れたところが切り取られるか、あまりにひどく傷ついていれば根元から伐採されてしまうのでしょう。何十年もかかって育ってきた木が、たった一冬の出来事で、・・・、あっけなくも哀れなことです。(写真は上がまだ雪が残る二月下旬、中と下は雪が解けた後の三月中旬の様子。)

 こうして樹木公園では今年、たくさんの桜の木が雪で折れてしまいました。痛々しい姿を見ながら、これが自然というものの本来の姿なんだと思ってはみても、春になって雪折れ桜に花が咲くと、重い雪の後遺症を苦々しい思いで眺めなければなりません。(平成14年3月21日 メキラ・シンエモン)


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