10  鳥越村

早春の手取峡谷

不老橋から下流の手取峡谷 手取峡谷は、吉野谷村と鳥越村の境を流れている手取川が作る絶勝で、ほとんど垂直にそそり立つ岩壁が8キロほども続いています。峡谷がもっとも美しい辺りにキャンプ場が二つあって、下流側は「手取峡谷いこいの森・キャンプ場」(東岸、吉野谷村)、上流側は「綿が滝いこいの森・キャンプ場」(西岸、鳥越村)といいます。春になったばかりの4月上旬、上流側の「綿が滝いこいの森・キャンプ場」辺りの手取峡谷に行ってみました。

 「綿が滝いこいの森・キャンプ場」は、道の駅「しらやまさん」から国道157号線を白峰方向へ10数キロ行った右側にあります。手取川の西岸ですから、3キロほど手前の黄門橋という橋か、そのひとつ上流の不老橋という橋を渡って行きますが、不老橋を行けば橋の上から峡谷の美しさを楽しめます。右上の写真は不老橋の上から下流の方を撮ったものです。右手が東岸で、国道157号線が手取川に沿うように通っています。不老橋を渡って上流の方へちょっと行くと「綿が滝いこいの森・キャンプ場」です。

エサキモンキツノカメムシ 春の初めのキャンプ場は、さすがにひっそりとしています。梅が花を咲かせていますが、まわりには他に咲いている花も無く、かえってどこかしらうら寂しい印象を与えています。
 キャンプ場の中を流れる小川に架かる小さな橋の上で、背中にきれいなハート模様を付けた一匹のカメムシが、のそのそと歩いているのを見つけました。成虫で冬を越し、春になって活動を始めたばかりなのでしょう。ほかには動いているものはなく、まだすべてが眠っているようです。(カメムシはミズキなどにつくエサキモンキツノカメムシでした)
 橋にカメムシがいた小川は、先へ行って滝となっています。これが綿が滝ですが、滝の真上近くまで行くことが出来ます。滝を下から見ることは普通にあっても、川が滝に変るところはそう見られるものではないでしょう。ただし、滝の真上から真下を覗こうなんて決して考えないことです。
綿が滝 ここには滝壷に降りられるように階段がついています。階段はかなり急なうえに幅が狭く、不規則に右に左に急角度で曲がっています。おまけにしぶきが降りかかります。滑る足元に気をつけながら階段を降りると、下は起伏の多い岩場になっています。
 滝の様子は、なるほど崖の上で綿をちぎって続けて投げ下ろしているようにも見えます。その高さも幅も勢いも峡谷によく似合った、ころあいの滝です。妙な例えになりますが、誰かがどこかから切り取ってきて、ここへ置いたような感じです。落ちる水の量も豊かですが、この辺りは川の流れがとても緩やかで、水しぶきを上げて勢いよく滝壷に落ちた水は、すぐに淀んでしまいます。
 両岸の岩壁にはほかにも小さな滝があり、また、ところどころ岩の裂け目から染み出た水が、次第に集まり岩肌を伝ってカーキ色に濁った淵へと流れ込んでいます。滝のまわりは切り立った崖と空が見えるばかりで、滝の音しか聞こえず、幽谷と言えば少しおおげさですが、人里遠く離れた山の中のようです。すぐこの上が国道で、車が頻りに通っているとは信じられないほどです。

 手取峡谷はその規模や美しさが景勝地の名にふさわしい実に堂々としたものですが、漸く春が訪れたばかりのこの時期は、緑が少ないせいかどこか萎縮しているように見えました。やはり新緑の頃か紅葉の頃が良いようです。(平成12年4月29日 メキラ・シンエモン)


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