11  金 沢

大乗寺の石仏

山門とシャガ 金沢市の東南部、野田山に大乗寺という曹洞宗のお寺があります。平日は人影があまりないところですが、天気の良い休日には観光客がけっこう来ています。市内中心部からは離れていて交通の便は良くないし、近くには、他にこれといった観光の対象となるようなところも無いので、観光に訪れる人はよほど時間に余裕がある人なんでしょう。
 近年、大乗寺のふもとは民家が迫り、そばに老人ケアセンターができたり、墓地が拡張されて寺を取り巻いていた森が薄くなったりして、以前の山寺の雰囲気はかなり失われたものの、モミなどの大木が茂る境内は静寂が保たれています。境内に花は少なく華やかな様子はありませんが、それでも春はドウダンツツジが白い花をつけ、山門前の階段脇にはシャガの美しい花が咲きます。秋になると彼岸花が赤い花を咲かせます。(写真は山門)

観音菩薩 境内には多くの石仏があります。それを見るというのはちょっとした楽しみです。総門を入って右に曲がった突き当たりに、30年程前に作られた写経塔があって石仏の十一面観音が立っています。これは名工の手になるもので聖林寺(奈良県桜井市)の国宝十一面観音に似た立派なお姿です。ただし、石仏として見る時、整いすぎていてあまり面白くありません。
 むしろ興味深いのはほかに何体もある小さな石仏でしょう。いずれも古いものではなさそうで、何かで紹介されるということもない平凡な石仏ばかりですが、よく見れば味わい深いものもたくさんあります。(左の写真は山門付近の石仏
如来三尊像 そのなかでちょっと面白いのは、仏殿と山門の間、木立の際にある如来三尊像で、どこかで見たようなと思ったら、これがなんと有名な石位寺(奈良県桜井市)の日本最古の石仏に構図がそっくりです。たぶん似せて作ったものでしょう。向こうはボリューム感がある白鳳の石仏で、笑みを浮かべているのに対して、こちらの方は彫りがあいまいな感じで、両脇侍のバランスも取れていないのでちょっと貧弱ですが、中尊のべそをかいているような表情がかわいらしく見えます。(右の写真)
 大乗寺には境内ばかりでなく、参道や墓地の方にもたくさんの石仏があります。つい、その前でじっと見てしまいますが、やはり、お墓の横に立っているお地蔵さんなんかは、しげしげと眺めるのは、ちょっと遠慮してしまいます。

観音菩薩 地蔵菩薩 地蔵菩薩 馬頭観音菩薩

 石仏というのは、単に石に彫られた仏像というのではありません。多くは戸外で雨ざらしになっていて、表面が汚れたりコケがついたりしていますが、そのためでしょう人工物ながら自然のなかに違和感無く溶け込んでいます。それに加えて、石という素材自体が持つ質感、量感とその表現上の制約がもたらす造形に一種独特の雰囲気があって、精緻に造られたものでない方が却って親しみやすく、ほのぼのしたものを感じさせます。(平成12年5月6日 メキラ・シンエモン)

写真:メキラ・シンエモン


 ホーム 目次 前のページ 次のページ

 ご意見ご感想などをお聞かせください。メールはこちらへお寄せください。お待ちしています。