13  河内村

フジを見に行く

 五月はフジがきれいな花を咲かせますが、河内村はフジを村の花にしているというので、きっとフジがたくさん咲いてるところがあるのだろうと思い、行ってみることにしました。しかし、河内村のどこへ行けばよいのか分からなかったので、とりあえず野生のフジが生えていそうな直海谷川(のみだにがわ)の下流にしました。

ダムの湖 直海谷川は河内村役場から金沢セイモアスキー場・千丈温泉へ行く道のかたわらを流れている渓流です。下流の手取川との合流点近くに手取川第三ダムがあります。金沢からは国道157号線を白峰方向に行って、河内村役場前の信号を左に曲がると直海谷川沿いの道に入ります。
 少し行くとダムが見えますが、すぐにその横にあるトンネルに入ってしまいます。トンネルを抜けるとオリーブ色をしたダムの湖が左に見えます。500メートルほど行った先の湖畔に野鳥観察舎があるので、そこからフジが咲いているところが見つけられないかと思い寄ってみました。
ケヤキに下がるフジ 崖からベランダ風にせり出している野鳥観察舎から向こう岸を見ると、緑の中にぽつりぽつりとフジが咲いているのが見えます。こうなると向こう側へ行ってみたくなりますから、渡れるところを探しながら先へ行くことにしました。
 野鳥観察舎を出てしばらく行くと左手の道路脇に休憩用の小さな駐車場があって、そこにかなり目立ってフジの花が咲いていました。大きなケヤキの木の枝からフジの花の房がいくつも垂れ下がっています。フジはつる性の植物で公園などに藤棚が作ってあるのをよく見かけますが、野生のフジはほかの木にまきついて梢からうすい紫色の花の房を垂れています。山の中で若葉に囲まれて咲くフジは、藤棚で咲くフジとはまた違った美しさがあります。

ラショウモンカズラ ツボスミレ
ラショウモンカズラ ツボスミレ

 更に少し行くと発電所があって、その横を通って向こう側へ渡れそうな感じがしましたが、もう少し先まで行ってみることにしました。
 板尾という集落の辺りで、人家の近くに渓流に下りられるところがあったので、川原に下りてみることにしました。渓流に下りる道を歩いていくと、山道らしくハンミョウがいて歩く先へ先へと飛びます。また、道の傍らには渓谷に多く見られるラショウモンカズラや、湿ったところに生えるツボスミレが咲いています。川原の石の上には尾を振っているセグロセキレイの姿も見えました。
ハンミョウ板尾辺りの渓流 川の流れは意外に速く、音を立てて流れていますが、流れが向きを変える辺りでは、水が澱んで深い緑色をした淵になっていて、上からフジの花穂がいくつも垂れ下がっています。
 これ以上先へ行くと湖の向こう側から離れるばかりなので、ここで引き返して、さきほどの発電所の横を通って湖の対岸へ渡ることにしました。

房の短いフジ 房の長いフジ
ヤマフジ フジ

 対岸の道は舗装されている細い道ですが、車はほとんど通らないようです。道幅が充分広くなっているところがあったので、そこへ車を停めてすこし歩いてみました。
 道の両側のいたるところにフジの花穂が垂れ下がっているのが見えます。よく見ると中に花穂の短いものがあります。日本のフジにはフジとヤマフジの2種があって、ヤマフジは茎がフジとは反対の左巻きにまきで、フジに比べて花穂が短く、フジの花は房の上から順に咲いていくのに対してヤマフジは上から下まで一度に花が咲くといいます。また、フジが全国どこででも見られるのに対してヤマフジが自生しているのは本州中部以西だそうです。ここの咲いている花穂の短い方は花の房が上から下まで咲いています。茎の巻き方は確認できませんでしたが、これはヤマフジだろうと思います。
タニウツギ フジのほかには、山の斜面にヤマツツジの赤い花や、日本海側の雪の多い山地に生えるタニウツギ(写真)の桃色の花が咲いていて、谷の方はミズキなどの白い花が目の高さかそれより下に見えています。
 こうして車に乗ったり歩いたりを繰り返して、フジを探して先へ進みました。しばらく行くとフジがまったく見られなくなりました。更に行っても駄目です。フジを見つけられないままに、そろそろ湖の中ほど辺りまで来たのだろうか、野鳥観察舎はもう過ぎただろうかと思っていると、少し視界の開けたところがあって、木々の隙間から湖と野鳥観察舎が見えました。しかし、ダムの見えるところまで行ってもフジは咲いていませんでした。

桜並木 ちなみに、そのままダムの近くまで行くと、片側だけが桜並木の湖畔の道になっていて、その先に車が何台も停められる駐車場のようなところがあります。時折、対岸の道路を走るダンプカーの立てる音が、湖面を渡って低く響いてきますが、おおむね静かで、ウグイスやシジュウカラのさえずりがはっきり聞こえます。道はダムの堤の上を通っていて、向こう側は、最初に通ったトンネルの手前に出ます。こちら側に渡ってからここまでの距離は2キロほどですから、はじめにここへ車を置いて、ゆっくり上流方向へ歩いて、向こうまで行ったら戻ってくるというのが良いかも知れません。(平成12年5月27日 メキラ・シンエモン)


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