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蜘蛛の巣 雨の日の贈り物

 今年の三が日は仕事で、四日から漸く正月休みになって、家でNHK、Eテレの科学番組を見ていたら、蜘蛛の糸を人工的に作れるようになったという話をしていました。蜘蛛の糸は細く軽くしなやかなのにとても強いから大量に作って利用しようというんです。蜘蛛のDNAから糸を作るのに関係している遺伝子を特定し、それをある微生物に組み込んで糸を作らせ繊維にしていました。
 その繊維で何を作るのかというと、衣類はもちろんですが、防弾チョッキや車のドアまで作っていました。軽い車が造れます。でも、車が軽くなると風で横滑りしてしまうんですけどね。風が強い日は、凍った路面はもちろん雪道でも滑っている感じがするときがあって、ガソリンが少なくなっているときなんて、特にそうで、ヒヤリとします。だから雪国ではあまり軽い車は・・・。

 それはともかく、蜘蛛の糸がどれだけ強いかと言うと、同じ太さなら鋼鉄のワイヤーより強いといいます。蜘蛛がたった1本の糸で10センチほどのトカゲを吊り下げている映像が出ていました。

人間だって大丈夫です、糸1本で吊れます。

まさか、人間は無理だろう。

いや、大丈夫ですよ。カンダタは蜘蛛の糸を登ったじゃないですか。でも大勢は無理で、下からたくさん登って来るのを見てカンダタは、この蜘蛛の糸はオレのものだぞ、下りろ、下りろ、と喚(わめ)くんですが、時すでに遅しで、糸は切れて、真っ逆さまに落ちてしまいましたよ。

ああ、その話か。それなら知っている。でも糸は、阿弥陀様に言えば強くしてもらえたんだ。そうすれば大勢でも大丈夫だったんだよ。

そうだったんですか、知りませんでした。阿弥陀様に頼めばよかったのか。

あのー、勝手にいきなり出てきて、だれと話しているのか知りませんが、これは科学の話なんですけど、小説じゃなくて本当の話で・・・。それに、どこか話が変ですが。阿弥陀様に言えばって・・・、阿弥陀様じゃなくて、お釈迦様です。でも、そんなこと書いてありましたっけ、蜘蛛の糸が切れたのはカンダタが、極楽から阿弥陀様が、じゃなかったお釈迦様が下げてくれた蜘蛛の糸をひとり占めにしようとしたからで、自分だけ助かればよいという、その慈悲のない心が糸を切ってしまったんじゃなかったですかね・・・、あれっ、結局同じことか、カンダタがお釈迦様にお願いするということは、慈悲の心があるということで・・・、いやいや、お願いしなくても、はじめから極楽の蜘蛛の糸は強くて、慈悲の心があればそれだけでよかったので・・・、違う違う、糸が強いとか弱いとかそういう問題じゃなくて・・・、こっちまでなんだか変になりそう。

そうだよ、なんか勘違いしているんだよ、君らは。これは科学の話だよ。スパイダーマンは糸で車でもなんでも、どんな重いものだって吊ったり引っぱったりするんだから、蜘蛛の糸はとても強くて、その糸を人工的に作れるようになった、という話なんですよね。でも、それって昔からあったんじゃないですかね。こどものころ、東宝の怪獣映画で見ましたよ。主人公の妹のフィアンセが開発した細くて軽い、しなやかで強い人工の糸でキングコングを縛って、気球で浮かせてヘリコプターで引っぱって富士山麓まで運んでいましたよ。そしてキングコングはゴジラと戦ってゴジラもろとも海に落ちて・・・。

ああーっ、変なのが、またひとり増えた。
(小説は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」、映画は「キングコング対ゴジラ」です。念のため。)


 今は冬だから蜘蛛を見かけることはほとんどありませんが、夏から秋は蜘蛛の季節です。あちらこちらで蜘蛛が巣をかけています。蜘蛛の糸はあまりに細くて、注意しないと気が付かないこともしばしばです。それが、ねばねばしているから、蜘蛛の巣を引っかけてしまうと面倒で、顔に付いてしまうともう大変、気持ち悪いし取ろうとしてもなかなかうまくいきません。林の中などではよく引っかけるから、帽子を被って、折れて落ちている木の枝を拾って、見えない蜘蛛の巣を払いながら歩きます。
 蝶やトンボも蜘蛛の巣はよく見えないのか、よく引っかかっています。カメムシや蝉も引っかかっていることがあります。蜘蛛はそれらを食べて生きているのだから、因果な生業(なりわい)ですが、食べるときはいっぺんに食べてしまわないで、休み休み食べているみたいです。(下の写真はジョロウグモで 左は家の近くの道端で、右は家の庭で撮りました。)

 巣を張らない蜘蛛もいて、ハエトリグモは家の中にいますが、いい蜘だから見つけても殺してはいけません。いや、ほかの蜘蛛も同じです。生き物をむやみに殺してはいけません。でも中には毒蜘蛛もいるから気をつけないと。ほかに地面に穴を掘って巣にしている蜘蛛もいれば、花や葉の上にいる蜘蛛もいます。

 ワルナスビの花でもよく見かけます。蜘蛛だけではありません。ワルナスビの花にはハチやアブ、シジミチョウやテントウムシなどの甲虫まで来ます。ワルナスビは強害草といって、繁殖力が強くてほかの植物に害を与えるので嫌われ者なんですが、それで悪いナスビなんていう名前がついているんですが、虫には好かれているようです。どこにでも群れで生えて1本の茎に花をたくさんつけるから、昆虫にしてみれば、効率よく食事ができる、ありがたい草なんでしょう。人間の方が少数派でした。自然界では、人間はいつも少数派みたいです。
(上の写真の中で、蜘蛛を狙って撮ったものは左の上段下段の2枚だけで、残りは蜘蛛が偶然写り込んでいたものです。上段まん中の花はミゾソバ、右は萩です。下段左の葉はクヌギ、まん中の葉はマユミ、右はオクモミジハグマの蕾です。肝心の蜘蛛の名前は上段左がジョロウグモのメスですが、ほかは、残念、わかりません。すべて、野田山で撮りました。ワルナスビに来た蜘蛛と虫を撮った下の写真もすべて野田山で、上段の左と格段のまん中は蜘蛛や虫が偶然写り込んでいたものです。)

 巣を張る蜘蛛で一番よく見かけるのはジョロウグモです。大きな蜘蛛で毒を持っていますが微量で、人が噛まれても影響はないといいます。大きく放射状に糸を張った巣の中心にいて、頭を下にして獲物を待ちます。よく見ると端っこに、たいていは上の方に、小さいのがいます。オスです。真ん中の派手な色彩で大きいのはメスで、オスはメスに食べられないように上から見ながら交尾の機会を狙っているんでしょうか。
 虫がよく飛んでくる開けたところに巣を張った蜘蛛はすぐに大きくなりますが、軒下みたいなところにいる蜘蛛だと小さいままです。それなら、開けたところに巣を張る方がいいかというと、だれかに破られたり、雨に当たったりしてしまうから、頻繁に補修する必要があります。(下の写真はすべて野田山です。)

 雨に濡れた蜘蛛の巣を見たことがありますか。とてもきれいです。そして不思議です。糸に着いた水滴が等間隔で輪になっていることがあります。ネックレスのようです。水平に濃密に張られた巣では、横から見ると雨粒が空中で静止しているみたいに見えます。時間が止まったように。
 それは、雨の日ならきっと見られるというものではなく、雨の降り方が決めるみたいです。強く降っても弱くてもダメなようで、霧雨ならいいわけでもないようです。雨の日の蜘蛛からの、めったにない贈り物です。(下の写真はこれもすべて野田山です。)


 テレビでは、ほかにも、蜘蛛の糸はタンパク質でできていて生分解性があるから、つまり自然に返すことができるので、近ごろ、ゴミが問題になっているプラスチックに代わる素材になると言っていました。レジ袋が有料化するという話がありますが、蜘蛛の糸のレジ袋が登場すれば無料にできるんでしょうか。
 蚕に蜘蛛の遺伝子を組み込んで強い糸を作らせるということも言っていました。将来、蜘蛛の糸の加賀友禅が登場するんでしょうか、着る人がいるだろうか。それより、蚕にそんなことしてもいいんですかね。蚕だって生き物です。生命をいじくるのは、もういい加減止した方がいいと思いますが・・・。(2020年1月10日 メキラ・シンエモン)

写真:メキラ・シンエモン



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