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佐保路シリーズ

西大寺 本堂のご本尊はオシャレなお釈迦様

 40年ぶりです、と、この仏像巡りでは毎回書いていますが、40年前の西大寺の記憶は隣接する幼稚園の園児たちでした。境内で遊んでいたそのかわいい様子が本堂の善財童子とかぶって心に残りました。幼稚園は四王堂の裏にありますが、今日は軽快な音楽と園児の声が聞こえています。運動会みたいです。COVID-19の心配はあまりしていないのか、音楽に負けない大きな歓声が人の姿のない境内に響いていました。それで、雰囲気台無しだよね、と思ったのかと言うと、ちっとも気にならなかったのは40年前の記憶のおかげでしょうか。あるいは運動会の音というのは騒音には聞こえないものなのか、ミキオ君も、運動会かな、と言うだけで気にかけていない様子でした。


西大寺 本堂と東塔跡
 四王堂と横並びに本堂があります。光明真言堂とも呼ばれています。平安遷都で衰退した西大寺を鎌倉時代に復興した、興正菩薩と称される叡尊(えいそん)上人は真言律宗の開祖でした。本堂の前には大きな基壇があって上部に建物の礎石が密に並んでいます。東塔の跡です。その先のまっすぐのびる参道の突き当りに正門である南門が見えています。本堂は四王堂同様に江戸時代の建物で、もし東塔跡が残っていなければ普通に見るお寺の本堂と変わらぬ印象でしょう。東塔跡は西大寺では往時を偲ばせるただひとつの遺構ですが、その大きさを見ればそれは西大寺にとってそれ以上に誇らしい過去の記憶でした。


渡海文殊騎獅像
 本堂に入るとここもぼくらのほかに拝観者はいません。ゆっくり観ることができそうです。真ん中にご本尊の釈迦如来立像、その向かって左に渡海文殊菩薩の群像が祀られています。先ずは文殊菩薩像から観ます。この渡海文殊菩薩像は鎌倉時代に叡尊の弟子たちがその十三回忌に師の追善供養に作ったものだといいます。西大寺の創建は称徳天皇ですが、鎌倉時代以降は叡尊の寺になっていました。
 渡海文殊菩薩というのは中国五台山で信仰が始まった文殊菩薩です。民衆の救いのために、四人の眷属を従え獅子に載って海を渡って来るところを表現した群像です。社会福祉活動に熱心だった叡尊は文殊菩薩への信仰が篤かったといいます。ぼくにとっての渡海文殊菩薩は高校生のとき平泉中尊寺の経蔵で観て、こんな仏様がいるのかと衝撃を受け、仏像を観るきっかけとなった仏様でした。去年の飛鳥路でも桜井の安倍文殊院で快慶作の7メートルを超す巨像を観ましたが、西大寺本堂の渡海文殊は常識的な大きさで全体に動きも控えめだから安倍文殊院より迫力に欠けますが、表情はこちらの方がぼくの好みです。それに善財童子のかわいさも、ぼくにとってはこっちが上です。何度観ても愛くるしく、いつまで観ていても飽きません。

清凉寺式釈迦如来立像
 本堂のご本尊は清凉寺式と呼ばれる釈迦如来像です。と、ここでもミキオ君に講釈します。よく憶えているな―、すらすらよく出てくるなー、とミキオ君は関心しているようなことを言いますが、これくらいのことは知っていて当たり前で、ミキオ君もそろそろそうなってもいいころなんだけど忙しい人だからもう少しかかるみたいだ、と思いながら、自然に憶えることだよ、と返しました。
 清凉寺式というのは京都嵯峨野の清凉寺にある釈迦像のスタイルなんですが、そのルーツは中国の宋にあります。さらにもっと元を辿ると古代インドの王様優填王(うでんおう、ウダヤナ 渡海文殊の眷属のひとりになっている)が生前の釈迦の姿を写した像に行き着くといいます。清凉寺の開基「然(ちょうねん)が宋にいたとき模刻させて日本へ持ち帰りました。
 必ず立像に造るその姿は普通の如来像とは大きく異なります。彫刻的には中央アジアの仏像に見られるギリシャ彫刻風すなわちガンダーラ風ですが、生身の釈迦を写したというだけあって人間的で"オシャレ"な雰囲気の釈迦像です。面長の顔に髪型は螺髪ではなく三つ編みのように編んだ髪を纏めて結いあげ、着衣も如来像定番の胸を大きく露わにしたスタイルではなく、首のから下の全身を薄い生地がぴたりと肌に貼りつくように覆う、流れるような衣文が美しいドレスのような感じの衣を着けています。
 清凉寺式釈迦像は全国に100体ほども残っているそうですが、西大寺の像はそのなかでもよく知られている1体で、衣に截金の紋様まであしらっていて、なかなかのイケメンお釈迦様です。叡尊が清凉寺の本尊を気に入って模刻させたものですが、叡尊という人はあたらしもの好きでもあったようです。


 次は隣に直覚に曲がって建つ愛染堂です。外へ出れば気温が上がってきたようで長袖では少し暑くなりそうです。こうなるだろうと予想して半袖のポロシャツを持ってきています。でももう少しこのままでいます。(2020年10月28日 メキラ・シンエモン)



ウィズコロナのサンダーバード4号
 新型コロナウイルス感染症COVID-19の影響でサンダーバードも乗客数が減ったと聞いていましたが、10月になって4号は元に戻ってきているのか、ぼくが乗った自由席の5号車は福井駅で半分以上の席が埋まりました。もっとも金沢6時7分発で停車駅の多い4号は、元々、発時間が7時台といういい時間になる福井県内の駅でビジネス客がたくさん乗り込んでくるサンダーバードでした。
 車内放送と自動ドアの上の電光掲示板で新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染予防のために、マスクを着用し大きな声を控えて座席を向かい合わせにしないように、と呼び掛けていますが、少し離れた前の席では芦原温泉から乗り込んできたお年寄り男女4人のグループがそんなことにはお構いなく大きな声で笑ったり話したりしていました。耳が遠いからでしょう。あるいは外に出られてうれしいのか。老人たちは一頻り喋ると静かになり、敦賀で降りていきました。(2020年10月28日 メキラ・シンエモン)


写真:メキラ・シンエモン


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