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04と33 ハセガワさんの知らないたまごひこーき

 COVID-19パンデミック3年目の暑い夏、第7波に突入して一ヶ月経っても収束の兆しが見えずその勢いは増すばかりで各地の感染者数も軒並み過去最大を記録してまだ足りないとばかりにその更新が日々続いています。しかし行動制限を求められることはありません。去年までとは違ってワクチンもあれば特効薬もある、オミクロン株の最新亜種BA.5は感染力が強いといっても重症化しにくい、五月蠅いことを言われるのは誰もがもううんざり、なにより商売に障る、よって行動制限はしないが感染予防は徹底してください、というのです。感染予防の徹底とは厳しい行動制限にほかならないから、それを自らの自由意志で自身に課す、というんでしょうか。日本人がこぞって自己管理の達人だったとは知らなかった。それなら医療崩壊の心配もありません。えっ、実情はあなたのその認識とは正反対、ああ、そうなの・・・。というようなこととは無関係に、おととしのコロナ禍の巣籠で復活したぼくのプラ模型作りは今も続いています。


MS-06ZAKU
 それは破損した過去の作品の修復から始めたのでした。その前にやったことがあります。昔から、プラ模型を作るのがしばらくぶりならまずちょっと練習をすることにしているんです。気を張らずに作れるキットで肩慣らしというか感覚を取り戻すためのウォーミングアップをします。使うキットは決まっていてガンプラか「たまごひこーき」です。ガンプラは主にザク系統を作ります。新しく買ったりはしません。ストックがあるんです。MS-06ZAKUは旧式のモビルスーツですがおもちゃっぽさをあまり感じさせない外形が実用兵器的でそのシンプルなデザインが気に入っています。ちなみにドム系統も良いしザクよりさらに旧式のランバ・ラル専用機MS-04BUGUはザク系統に入れて良い。ガンプラは肩慣らしには十分ですが飛行機を作るためのウォーミングアップには「たまごひこーき」が最適です。

たまごひこーき
 たまごひこーきとはなにかというと、飛行機プラ模型ファンには要らぬ説明ですが、そうではない人のために解説すると、飛行機のスケール模型で世界をリードする長谷川製作所が1970年代の中ごろ肩の力を抜いて楽しく作れる模型をと企画した飛行機模型のシリーズで卵の形にした胴体にちっちゃな翼が付いています。簡単に楽に作れるように設計されているので初心者にも向いたキットでした。爾来半世紀近く当初8機種でスタートしたシリーズは三倍ほどにまで種類を増やして今も続くプラ模型の人気シリーズです。スケール模型ではないので肖像性云々を言っても全く意味はなく、塗装も自由なら改造も好きにできます。仏像で言えば三十二相八十種好でその外形を厳しく規定されている如来像にはない自由な造形表現が可能でむしろそれが出来を左右する天部像みたいなもんです。喩えが変ですか、ピッタリだと思ったんですけど・・・。

 たまごひこーき誕生の背景にはプラ模型という趣味につきもののストレスがあったかもしれません。プラ模型専門誌には非常に高度な工作技術が紹介されていますがだれもがそれを習得できるはずはなく作例を見るたびに自分のスキルの低さに悄然としそれがストレスになりその反動のようにもっと気楽にのびのび作りたいと思う人も多いはずです。たまごひこーきが売り出されたころはまだ専門誌もレベルは低く作例も素朴なものばかりでしたが、このふざけたキットがスケールモデルの信奉者の間でも人気を呼んだことはそのころすでにプラ模型を作る楽しさと必然的に同居するストレスが増大しつつあったことの証だったような気がします。そのストレスがいかに過酷だったとしても作り続けるのはやはり楽しさが優るからで、自分はここまでこれで好しとするかと達観すれば出来の良し悪しに関係なく苦労の末に完成させたときの達成感と世界に唯一自分だけの模型を作りあげる喜びがそこにあるからです。自分以外にはゴミでしかないプラ模型。はかなくもむなしく水面(みなも)に浮かぶカゲロウの翅。

04と33
 練習のために新しくキットを買うということはありません。たまごひこーきも買い置きがあるんです。今回作ったのは空自の04(まるよん)33(さんさん)でした。04はロッキードF-104J33はロッキードT-33Aのことですが、部隊ではそれぞれ「まるよん」「さんさん」と呼んでいました。ちなみにF-86Fは「はちろく」で、F-4EJは「えふよん」でした。F-4を「ファントム」と呼んではいなかったように思います。
 ちょっと待った。おっ、久々にヒゲじいの登場ですか。なにがヒゲじいですか「ダーウィンが来た」の見過ぎですよ、それはともかく、ハセガワのたまごひこーきにはF-104T-33もありません、人が知らないと思っていい加減なこと言わないでください。その通りです、たまごひこーきにはF-104T-33もありません、でも作ったんですよ。どういうことかって、決まっているでしょう、既存のキットの改造で作ったんです。"ハセガワさんの知らないたまごひこーき"です。疑うなら証拠の写真を見せましょう。参考にF-104とT-33の実機の写真もどうぞ。

たまごひこーき 04(左)と33(右)
F−104J 空自 実験航空団 T−33A 空自 第202飛行隊


 なにっ、下手な工作だって、だからしばらくぶりの練習なんだってば、余計なお世話です。ついでに作りかけて中断しているLTV A-7EコルセアIIもどうぞ。これも"ハセガワさんの知らないたまごひこーき"です。制作の課程が図らずもバレてしまいますが・・・。

制作途中のたまごひこーきA-7EコルセアII 右はハセガワ1/72のA-7A

 ところで先ほどヒゲじいみたいに異議を申し立てたあなたは飛行機ファンのようだからベースとなったキットがなにかがきっとわかるんだと思いますが、飛行機ファンでもないミキオ君のような人にはわらないはずだからそれを明かしておくと、F-104JとA-7Eはホーカーシドレー・ハリアーが、T-33AはグラマンA-6が、改造のベースとなったキットです。やっぱりわからない。そもそもA-6もハリアーも知らない。やっぱり。そう思って写真を用意しました。A-6はスケール模型だけですが、ハリアーは実機とたまごひこーきの組み立て前のキットです。(実機の写真はいずれも航空祭などで撮影。)

AV-8Aハリアー 米海兵隊 たまごひこーきハリアーのキット A-6E ACE1/72

たまごひこーきになれる飛行機
 しばらくぶりの模型作りのための練習なのになぜ改造したのか。それはそのまま組んだのではあまり練習にならないからです。先に書いたようにたまごひこーきは初心者でも作りやすいように設計されています。そのまま組んでも物足りないんです。理由はもうひとつあります。むしろこっちがメインで、航空自衛隊のF-104JとT-33Aをたまごひこーきに作ってみたかったんです。ハセガワのシリーズには入っていないから既存のキットから改造するしかありません。
 先ずは改造のベースにできるキットを買い置きの中から選んだのですがそのとき気が付きました。たまごひこーきになれる飛行機となれない飛行機がある。シリーズの機体でいうとP−40はたまごひこーきになれますが零戦はたまごひこーきにはなれません。どうして。P-40は水冷エンジンで機首がすぼまっていますが零戦は空冷エンジンでどうしても機首が広がってしまい卵のイメージが弱まるからです。卵を前後逆にして尖った方を後ろにしたと思えばいい。いいえ、それでもダメでどうしてもただのデフォルメに見えてしまいます。同じ空冷エンジンの"空の真珠"B-239(シリーズにはない機体)は別の理由からもたまごひこーきにはなれません。もともとずんぐりしている機体だからたまごひこーきにする甲斐がないのです。それとP-38は水冷エンジンですが双胴双発だから論外です。レシプロ機つまりプロペラ機はこんな感じです。

P-40E ハセガワ1/72 零戦52型丙 ハセガワ1/32 P-38J エアフィックス1/72

 ではジェット機はというと、F-86Fはインテークが機首にあって口が大きく開いているからたまごひこーきにしてみても卵のイメージが弱くデフォルメしただけに見えてしまってダメです。機首にレドームがある機体は先が尖っているから良いようです。F-16は合格。でもF-15やF-14は失格です。双発で胴体がキャラメルの箱型だから卵の形が出ないのでただのデフォルメになってしまいます。A-6は合格。ハリアーも合格。SR-71は双発でしかも軟骨魚類のエイみたいなペチャンコの飛行機だから論外。F-4も双発ですがこれはいけそうです。でもシリーズのキットはダメです。F-4の胴体は当時流行の航空機設計理論だった面積ルール(エリアルール)を採用していて平面形で胴体の中央部付近がくびれていますが、それをそのままたまごひこーきに持ち込んだもんだから胴体が空き缶をつぶしたみたいに不自然にへこんでいてたまごひこーきのイメージを粉砕しています。スペースシャトルのたまごひこーきもありますが元があの形状だからただのデフォルメにしかなりません。ヒューズ500、ヒューズ300という回転翼機つまりヘリコプターがシリーズに入っていますがどちらも胴体が元々卵型をしているので、それをたまごひこーきにしてみてもただのデフォルメにすら見えずおもしろくもなんともありません。

F-86F 空自 第3飛行隊 たまごひこーきF-86Fのキット たまごひこーきF-16A 制作途中
F-15B デモ機 F-14A VF-2 エンタープライズ搭載機 SR-71 アカデミー1/72
たまごひこーきF-4EJ ヒューズ300 小松航空プラザの展示機 ヒューズ500 陸上自衛隊



 この暑さのなかでよくプラモデルなんか作っていられるね。まさか、なにもできなくて悔しいからこんなことを書いているんです。今年は夏が来る前から暑くなったけどまさか夏が終わってもいつまでも暑いなんてことにはならないでしょうね。そんなことわかるもんですか。ぼくらは予想もしないことが簡単に起きてしまう難しい時代に入ったみたいです。たまごひこーきが目玉焼きひこーきになる日が来るかもしれません。(2022年8月10日 メキラ・シンエモン)



模型制作と写真撮影:メキラ・シンエモン



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