参 考

白山神社の本社

 全国の白山神社はそのすべてが白山比盗_社を本社としています。しかし、これはそれほど古くからのことではなく、白山比盗_社が全国の白山神社の本社となったのは、明治になってからのことでした。

しらやまひめじんじゃ社殿 白山は加賀、越前、美濃の三国の境界にそびえる山ですから、これらの三国では、かなり古くから白山信仰が行われていましたが、昔はその中の一国が中心的存在だったということはなく、それぞれが独立したものでした。即ち、江戸時代までは、加賀には白山寺白山本宮(白山比盗_社)があり、越前には平泉寺白山神社が、美濃には長滝寺白山本地中宮があって、互いがライバル関係でした。例えば、三国は白山の禅頂(ぜんちょう、山頂)の領有をめぐって争っていますが、その争いの中心的役割を果たしていたのは、それぞれの馬場(ばんば、信仰登山の登り口)の中心であった各白山神社でした。資料によると、江戸時代末期には、加賀の白山比盗_社(白山寺白山本宮)系統の白山神社は約700社で、越前の平泉寺白山神社系統は約500社、美濃の長滝寺白山本地中宮系統は、一番多くて約1300社であったといいます。
 宮本常一の「忘れられた日本人」を読んでいると、福島県の高木某という人の先祖は加賀白山の山伏で、その土地に落ち着いた時に白山神社を祀ったが、それが後にその村の氏神になったという話が出てきます。「白山の山伏」としないで「加賀白山の山伏」としてあります。これは、宮本常一が、白山というのは加賀の国にあるのだということを、知らない人のために丁寧にも書いたというのではなくて、この高木某という人が実際にそう語ったことをそのまま書いたのだろうと思います。これは別に拘るようなことでもないかも知れませんが、高木某という人が、自分の先祖は「加賀白山の山伏」であったと言ったのは、昔はその白山神社がどこの白山神社の分霊社なのかということを明確にする必要があって、その名残のようにして「加賀白山の山伏」と言ったのだろうと思うわけです。
 このように、江戸時代にはすべての白山神社が白山比盗_社を本社としていたわけではありませんでした。では、それが何故にすべての白山神社が白山比盗_社を本社とするようになったのでしょうか。

 白山比盗_社は江戸時代までは白山寺白山本宮と称していましたが、それが明治になって、それまでの神社に関する制度が改められると、名称を延喜式(えんぎしき)の神名帳(じんみょうちょう)にある白山比盗_社に戻され、官社である国幣小社(後に国幣中社)となり、加賀、越前、美濃の白山神社の最高神とされたといいます。延喜式というのは平安時代の927年に編集された法律集、規則集みたいなもので、神名帳に名前の載せられている神社は、式内社(式内、式社)と呼ばれ、いわば官認の神社ということです。白山比盗_社は白山神社の中で唯一の式内社でした。つまり、平安初期、既に、加賀だけではなくて越前、美濃にも馬場があり、白山神社があったわけですが、それらを差し置くようにして、加賀馬場の白山比盗_社だけが正式の白山神社として、朝廷から認められていたということです。
 話を戻して、一方、明治のこの時、越前側の中心であった平泉寺白山神社は、単に白山神社とされただけで格付けは地方社でした。美濃側の中心であった長滝寺白山本地中宮も同様でした。白山比盗_社を白山神社の最高神とするというのは、明治政府の方針だったようです。
 ここまでは良いとして、問題はこの先です。つまり、いくら明治政府でも、越前、美濃は勿論のこと、全国の白山神社に対して、白山比盗_社を本社としろ、とは言えなかったはずです。実際、そういうことは無かったようです。また、越前、美濃系の白山神社も本社を白山比盗_社に改める必要性は無く、今まで通りで良かったはずです。なのに、今日すべての白山神社が白山比盗_社を本社としているのです。なぜでしょう。
 ある説によると、この明治政府の方針が徐々に浸透して、日本各地の白山神社は低い権威の本社の分霊社であるより最高権威である本社の分霊社である方が良いと考えて、縁起を改竄して加賀の白山比盗_社の分霊社と称するようになり、その結果、結局、すべての白山神社が白山比盗_社の分霊社と称するようになったというのです。この説が正しいのかどうかはぼくには判断できませんが、そういうこともあったろうという気はします。
 いずれにせよ、江戸時代までは加賀、越前、美濃の三系統の白山神社があり、明治政府によって白山神社の最高神は白山比盗_社であるとされてから、全国のすべての白山神社が白山比盗_社を本社とするようになったのでした。(メキラ・シンエモン)

写真:メキラ・シンエモン
 


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