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プラ模型という趣味 条件あるいは悩み

 前回、プラ模型を趣味とする人をコレクターとモデラーにわけてみましたが、前者は自分で作った模型を集めることを楽しむ人で、後者は改造や細部の精密な再現など工作そのものを楽しむ人でした。しかし明確な線引きができるわけではなく、コレクターも作ることを楽しんでいるのであり、モデラーも完成させたらすぐに捨ててしまうことはしないので、プラ模型という趣味に付きものの楽しむうえでの条件は、それはちょっとした悩みとも言えるのですが、コレクターでもモデラーでも同じです。


 プラ模型はお金の掛かる趣味ではありません。いくら使ってどのくらいの時間楽しめのるかというと、1/72の飛行機(例えば零戦)で1200円のキットだったとして、完成させるのにどれくらい時間が掛かるのか、つまり何時間楽しめるのかというと、ぼくの場合、資料を調べる時間も含めて10時間といったところです。室内でひとり楽しむ趣味ということで読書と比べるなら、1200円の文庫本で300ページぐらいだと、ぼくは5時間で読みます。プラ模型がお金の掛からない趣味だとわかるでしょう。プラ模型はキットだけ買えば作れるというものではもちろんなく工具も塗料も要ります。工具は一度揃えればずっと使えるし、塗料は小さなビンに入っていますが量は結構あるので、1/72の零戦クラスを100機作ったとして掛かる費用は1機あたり100円ぐらいだから安いものです。しかも、くんずねんずして(苦労して)完成させたあと暫くは悦に入ってぼんやりできるし、そのあとも度々眺めて自分の世界に浸れます。えっ、ちょっと暗い性格に見える、確かに。いや、むしろ鬼気迫るものを感じる、それも確かに。

 このようにプラ模型はお金を掛けることなく三昧の境地にあって至福のひとときを得ることができる趣味なのですが、一緒にいる家族はなかなかどうしてそうはいきません。大変です。ある家の主婦に訊いてみます。

プラモデルで嫌なのはなんと言っても接着剤や塗料の臭いよね。チリホコリも出るから、はじめのうちは本人の健康を気遣って、大丈夫なの、なんて言っているけど、茶の間でテレビを見ながらやられると永久追放したくなる。部屋に閉じ込め完全に隔離してしまうんだけど、するとこんどは、すっかり自分の世界に入ってしまうみたいで、ご飯に呼んでもなかなか返事しないから部屋の前まで行って、はやく食べてよ、と怒鳴ってしまうわ。やっと出てきたかと思ったら服には削り屑が付いているし手は塗料で汚れていて、そのままでご飯を食べようとするでしょう、外で埃を掃わせ手を洗わせるんですよ、まるでこどもね。やっと食べてくれたと思ったら、無言でさっさと部屋に引き上げてトイレ以外は出てこないでしょう、いつまでたってもお風呂に入ってくれないから、先に入るわよ、と警告しても、今日は入らない、なんて言うんだから、人の気も知らないで・・・。しまいにはもう放っておこうかしらと思うわ。

 どうもちょっと怒っているみたいです。怒らせないためにはほどほどにしておくことが肝要ですが、それがなかなかできません。すんなりできればむしろファンとは言えないでしょう。そこで、ほかのところでサービスします。毎週ゴミ出しに行くとか、晴れた日は庭掃除をするとか、たまにはどこかへ連れて行ってやるとか、です。はじめのうちは、どういう風の吹き回しなの、熱でもあるんじゃないの、と訝しがっても、そのうちこっちの意図がわかってくると、機嫌の良いときなんか作っているところを覗きに来て、ずいぶん熱心じゃない、とか、あら上手ね、とか言うかもしれませんが、皮肉かもしれないから、そこで調子に乗ると失敗するので用心しないといけません。(断っておきますが我が家の話ではありません。うちの嫁さんは理解があります。ぼくの影響で軍用機の国籍マークを主要国なら識別できるくらいです。)

 茶の間でやっても文句を言わない仏様のような家族だったら大丈夫なのか、せっせとサービスしていれば心配ないのかというと・・・、それがプラ模型という趣味にはまだ目の前に立ちはだかる難問があります。むしろこっちがより深刻で決定的です。完成させたプラ模型をどうするのか。即座に破棄してしまわない以上、飾っておくところが要ります。ひとつふたつならなんとでもなるでしょうが、趣味と言うからにはその数は二桁三桁、なかには四桁という人もいかもしれませんが、とにかく半端じゃない数になるから、茶の間の茶箪笥や玄関の下駄箱の上じゃとても間に合わなくて、それなりの広さのある部屋が要ります。
 結局、ひとりで自由に使える部屋をどうしても要求してしまうのがプラ模型という趣味です。プラ模型を趣味にしようと思う人にとって最大の問題は作ったものを飾る、あるいは保管する場所なんです。ぼくはプラ模型専用の部屋を持ちません。自分ひとりで使っている部屋はありますがほかのこともするから準専用です。その部屋のなかでプラ模型はどうなっているのか。こんな感じです。(写真の撮影時期はまちまちです。)

 ぼくがこれまでに買った飛行機のキットは約2500個です。この数は古くからのプラ模型ファンとしては多いとは言えないでしょう。そのうち組み立てたのは500個ほどで、壊れて捨てられたり残骸だけになったりしているものが約100機(ほとんどは小中高生のときのもの)、形を保っているのは残りの400機ほどです。ガラス戸付きの本棚に入れているのはそのうちの約半分で、3割は造り付けのクローゼットに棚を作って入れ、大きくて本棚にもクローゼットにも入らない残り2割は天井や壁に吊っています。(たまに知らないうちに墜落しています。)そして組み立てていない約2000個のキットは、箱に入っているとかなりかさばるので、必ず作るつもりでいるから、箱は潰してしまい(箱絵が気に入ったら切り取っておきます)、ランナー(部品が付いている枠のこと)から切り離した部品をビニール袋に入れ封をして、10個ほどの頑丈な箱に詰めてあります。組み立て説明書とデカール(転写マーク)は部品とは別にして数十冊のクリアファイルに入れています。組み立て説明書は完成後も捨てずにクリアファイルに保管します。未完成キットがやたら多いのは欲しいキットを見つけたらその場で買ってしまうからで、また今度にしようと思っているとすぐに店頭から消えてしまいます。そんな未完成キットの保管場所もいるわけです。自分の部屋だけでは収まらないので納戸にも置いています。

 ちなみに、実はここ20年ほどはひとつも完成させていないし、キットを買ってもいません。視力が低下してきたし細かな作業をする集中力も続かなくなったからで休止状態です。それで仏像を観に奈良に行っているわけじゃありません。女房から苦情がでないのはいい。でも、まだ気持ちは残っているから、いつかきっと再開したいと・・・、えっ、奥さんは理解があったんじゃなかったのかって、・・・。


 プラ模型という趣味はひとりで使える部屋がなかったら断念するしかありません。それで飛行機好きの中学生は自分の部屋がもらえなかったら文学少年になることがあるかもしれません。ぼくは自分の部屋があったので文学少年にはなりませんでした。(2020年2月7日 メキラ・シンエモン)


写真:メキラ・シンエモン



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