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ジョロウグモとルリチュウレンジとスズメバチ
虫が虫を襲うといえば蟷螂がすぐ思い浮かぶだろう。あとは蜘蛛がそうだ。しかし肉食の昆虫はほかにも多い。オニヤンマ、シオヤアブ、ハタケノウマオイなども肉食だしヒラタアブ、クサカゲロウ、ナミテントウはアブラムシを食べる。ドロバチなど幼虫のエサにするために芋虫や蜘蛛を狩る蜂もいる。去年ジョウカイボンがナミテントウを襲うところを見たとこのHPに書いた。ジョウカイボンは小さな虫を食べる甲虫でそれがだれでも知っている人気者の天道虫を襲撃するシーンはなかなかちょっと見られないだろう。襲撃はうまくいかず失敗したからおもしろい見世物となったがもし成功していたらあのような記事にはならなかった、いや、そもそも書いたかどうか、自分のことながら甚だ怪しい。たとえそれが虫同士であっても殺害現場には出くわしたくはない。
そう思っていても風を見て雲に聞いて小鳥のさえずりを先達として野山を歩けば草叢であるいは樹上で繰り広げられる虫たちの生きるための日々の攻防を目撃してしまう。ぼくは蟷螂の鎌に挟まれた蝶を見ても蜘蛛の巣に突入してしまった蜻蛉を見ても助けない。自然からはみ出して生きる者の独り善がりは慈悲ではない。助ければ獲物を逃がした虫が命を明日へと繋げられないかもしれない。襲う者が襲われる立場に変わるのも一瞬だ。食物連鎖という異種間の生命の継承は神の摂理。そうやって地球は自然を守り秩序を保っている。戦争をして人間同士が大量に殺し合うのもまた神の摂理か。
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ルリチュウレンジ 2024年5月25日 自宅のドウダンツツジ |
8月のある日ウォーキング中に桜の木の上から蝉が激しく翅をバタつかせる音が降ってきた。見上げるとハラビロカマキリの鎌の下でアブラゼミが必死にもがいている。鳴かないところをみるとメスか。反射的にカメラを向けた。腹が見えたやはりメスだ。彼女は突然蟷螂から解放された。蟷螂が押さえ切れなかったのか、鎌が一瞬緩んだ隙に彼女が逃れたのか。蝉は低空で飛び去り後退りする蟷螂の間抜け面がこっちを見ている。ぼくは心の中で拍手していた。
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2024年8月16日 野田山 | |
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2024年8月27日 野田山 |
それから十日ほどして灌木の枝の間に張られたジョロウグモの網にルリチュウレンジが掛かっているのを見た。ルリチュウレンジは金属光沢のある美しい藍色の小さな蜂だ。まったく動かない。蜘蛛の糸が絡まり動けないのか。上からまだ小さいジョロウグモが迫る。蜘蛛はオスかもしれない。カメラのピントが合わないうちに液晶モニターからルリチュウレンジが消えた。どこへ行った。カメラをおろせばそこに小型のスズメバチがいた。キイロスズメバチだろうか。なにか黒いものに噛みついている。あの消えたルリチュウレンジだ。蜘蛛の獲物の蜂を蜂が横取りしていた。ぼくの感情が憤りに騒ぐ。なにに憤るなにを騒ぐ。 2024年8月29日とらもとしんいち(メキラ・シンエモン)
写真:とらもとしんいち
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