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許すまじ、アオドウガネ

 このところ朝食のあとは庭に出てカシワバアジサイ、ガクアジサイ、リンゴを順に巡りアオドウガネを退治するのが日課です。昆虫は捕まえない主義ですがこの甲虫だけは別、躊躇することなく排除します。


アオドウガネ
 カブトムシと同じコガネムシ科の甲虫で見た目はドウガネブイブイそっくりながら体色は銅色ではなく緑なので青いドウガネブイブイでそれを縮めてアオドウガネです。しかしドウガネブイブイとはおもしろい名前にしたものでブイブイとはなんのことなのか、ブイブイという音を出すのでしょうか、聞いたことありませんが。
 そういえば近ごろドウガネブイブイをとんと見かけません。こどものころは夜になるとよく家の中に飛び込んできました。そのころ、幼稚園から高校まで、住んでいた家は今よりずっと町中で犀川の桜橋に近い寺町でした。お向かいさんは県会議員だか市議会議員だかの先生でそのお屋敷の広い庭にはいろんな木が植えられていて虫もたくさんいて夏は庭の中心にある大きな栗の木の周りをカナブンが何匹も飛んでいました。
 カナブンはまれに我家に向かって飛んでくることがありました。小学生のぼくはこのチャンスを逃すまいとアミを出して捕獲にかかりますが素早く飛ぶからなかなか捕まえられません。それでもなんとか捕まえて親指と人差し指で挟んで持つと脚を踏ん張る力がものすごくて指に食い込んで痛くて痛くてそれでも離すまいと必死にこらえたもんです。カナブンはぼくにとって大人になっても憧れの昆虫です。
 ドウガネブイブイは外が暗くなると我家の灯りに釣られてよく飛び込んできました。素手で簡単に捕まえられましたが茶色の液(排泄物だといいます)を出すことがあって手についたら嫌なのですぐに外へ放り投げました。アオドウガネもやはり液を出すのか、手で触ったことがないのでわかりません。

アオドウガネ 2023年7月17日 自宅庭のリンゴの木

許すまじ、アオドウガネ
 ドウガネブイブイは桜の木の害虫ですがアオドウガネもまたそうで桜に加えて紫陽花の葉まで食い荒らします。紫陽花が大好きなぼくにとってはすこぶる嫌な虫です。大発生するとやっかいですが、そのやっかいが去年の夏、我家の庭でおきました。ある朝、ご飯を食べて庭へ下りると紫陽花の葉が穴だらけです。だれの仕業かと考える必要はありません、紫陽花の上にたくさんのアオドウガネがいました。大切な紫陽花を・・・、どうしてくれようか。女房が畑の害虫駆除に使っている殺虫剤を物置から持ち出して撒きましたが効果はあまりなく、翌日は更に被害が拡大して数日後にはカシワバアジサイもガクアジサイも葉はすっかり食いつくされていました。許すまじ、アオドウガネ。

ガクアジサイ 2023年7月20日 カシワバアジサイ 2023年7月20日

捕獲大作戦
 今年も奴らはきっとたくさん出てくるに違いないと思っていたらやっぱりそうなりました。土の中で卵から孵った幼虫はやがて蛹になり成虫となって地表に出てきますがどうもそれは夜らしいのです。夜、あたりが静かになってから部屋の窓ガラスにコツンとぶつかるものがいます。暫くしてまたコツン。次々にぶつかる音がします。窓の明かりに引き寄せられた虫だろうと見当が付きます。朝になって紫陽花を見ると、あっちのこっちのむこうのと葉の上にたくさんのアオドウガネがいました。やっぱり、それでは、とかねてより考えていた捕獲大作戦を可及的速やかに遂行します。火ばさみを使って一匹また一匹と摘まんで取り除くのです。見えるものすべてを捕獲するのに15分かかりました。大作戦というからにはなにかハイテクを駆使した特殊な器具でも使うのかと思ったら火ばさみとはなんとローテクにしてダサくて貧乏くさいではないかと思ったでしょうね。でもこの火ばさみの威力は抜群で夕方になり暗くなりかけても新手は一匹も現れませんでした。爾来この早朝の火ばさみ作戦が日課になっています。

ベイルアウト
 火ばさみ作戦は有効でしたがなかなか簡単ではありませんというのは、奴らはつかみそこねるとすぐに、ポロリ、葉から滑り落ちるんです。葉が揺れるだけでも、ポト、地面に落ちてしまいます。翅があるのに飛ばずに落ちます。びっくりして落ちるのかというと・・・そうではないみたいなんです。この落下は意志によるもののようで、あるいは条件反射かもしれませんが、いずれにしてもベイルアウトしているんです。その証拠に地面に落ちると直ちに土に潜ろうとします。そこをそうはさせまいとすかさず火ばさみで挟みます。草の陰に入るなどして見失い取り逃すこともありますが多い朝なら10匹以上少ない日でも5匹は排除します。その結果紫陽花の被害は激減していてガクアジサイで去年の1割程度、カシワバアジサイはもっと低くて5%ほどです。

リンゴ 2023年7月26日

反転攻勢
 しばらくはうまく行っていましたが一週間ほどして奴らは反転攻勢に出ました。攻撃正面を紫陽花からリンゴに変えたんです。今もっとも被害が目立つのはリンゴです。気付いたのはルリカミキリが姿を消してゴマダラカミキリを見つけた日から幾日かあとでした。その日外出から戻ってリンゴの木を見るとコフキコガネがいました。これは珍しいお客さんが来た、と早速カメラを持ち出して写真を撮ってなにげなく目をほかの枝に向けると、なんだこれは、その枝にアオドウガネがいました。ただちにカメラを火ばさみに持ち替えて、火付盗賊改安部式部である神妙に縛につけ、と直ちにそいつを摘まみます。そのとき枝が揺れて、ポト、上から一匹落ちてきたではないですか。それを取り除き、もしやもっといるのではと木を揺すると、ポト、ポト、ポト、ポト、ポト・・・何匹も落ちて地面に散らばります。土中に潜ろうとする奴を捕まえ、潜った奴も火ばさみを揮ってほじくり出しますが、敵は多勢火ばさみは一本、何匹かは逃げてしまいました。安部式部は雲霧仁左衛門を取り逃がす。その翌日から朝の哨戒にリンゴの木が加わっています。

コフキコガネ 二度目に来た時 2023年7月16日 自宅庭のリンゴの木

どこから来たのか
 作戦開始からひと月にもなるでしょうか捕獲数はかなりの数になりますがまだまだで毎朝見つかります。リンゴに移ったのは食べ物の好みが変わったのでしょうか。つまみ食いしてみたらリンゴの方がおいしかった。リンゴは甲虫に人気みたいでルリカミキリ、ゴマダラカミキリ、コフキコガネ、アオドウガネ、それからセマダラコガネがいるのを見たこともあります。まさか昆虫が急に食べ物の好みを変えるなんてそんなこと。それなら安全な場所を探して移動するのでしょうか。それはあるかもしれません。リンゴに多い日と紫陽花に多い日があります。紫陽花はヤバいぞリンゴに行け、とか、リンゴの方がヤバくなってきた紫陽花に戻れ、とか個体間で情報のやりとりをしているのでしょう。

ルリカミキリ 2023年7月3日 自宅庭のリンゴの木
ゴマダラカミキリ 2023年7月5日 自宅庭のリンゴの木
 セマダラコガネ 2023年7月11日 野田山

 それにしてもその出現は突然でした。そもそもアオドウガネはどこから入ってきたんでしょう。ウォーキングで登る野田山の大乗寺丘陵公園は紫陽花の名所でアオドウガネを見かけることもあります。ぼくの服にくっついてきた個体が我家の庭で繁殖しているのでしょうか。でも野田山の紫陽花にアオドウガネの大発生はないようです。


 不思議なことに被害は主庭だけで前庭と背戸のガクアジサイはまったく無傷です。同じガクアジサイといっても園芸種の種類はもちろん異なります。しかしそれが理由とは思えません。紫陽花は紫陽花。奴らは地上に出たところにある木の葉を先ず食べるのかもしれません。幼虫のとき食べていた根の味を憶えていた。それならリンゴに移ったり紫陽花に戻ったりしているのではないことになりますが、それに去年はリンゴにアオドウガネは付きませんでした。それは、一昨年はリンゴのそばでは産卵がなかったからかもしれません。だとすると今年生まれたメスが前庭や背戸の紫陽花の近くで産卵すれば来年は・・・。火ばさみ作戦は夏のあいだずっと続きます。 2023年7月27日 虎本伸一(メキラ・シンエモン)






写真:虎本伸一


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