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ジョウカイボンVS.テントウムシ マユミの木の上で

 火星に移住したらぼくらは春がきてもお花見はできません。桜の木がないからで在原業平なら世の中に桜がなければ春は・・・なんて詠むもんじゃないねと歌を撤回するかもしれず、お団子が売れなくなったお団子屋さんはお店をケーキ屋さんに改装するかもしれません。(在原業平「伊勢物語第82段」「古今和歌集巻第一春歌上53」)
 桜が生えていないのは火星には昆虫がいないからです。昆虫は人類よりはるか昔に地球上に現れた生物ですが本当に地球の生き物なのでしょうか。翅(はね)が4枚もあってそれで宙を飛びます。その翅の起源つまりそれがいつどうして発生したのかはまったくわかっていないといいます。やはり飛翔する動物である鳥の翼は先祖の恐竜の前肢に生えた羽毛から発達したことが化石の証拠からわかっていますが、昆虫は飛ぶことのできない不完全な翅を持った先祖の化石が見つかっていないんだそうです。
 地球は天文学では岩石惑星ですが構成元素の比率では鉄の惑星で国際宇宙ステーションから眺めれば雲と海ばかりが見える水の惑星です。どこかのバカが核のボタンを押せば未来は猿の惑星になります。でももっとじょうずに地球らしく表現するとしたら多くの生き物が暮らす生命の惑星とすべきでしょう。その厳正な事実はレイチェル・カーソンが言ったように昆虫がいなければ地球は生命の星として機能しないということです。それなら地球は昆虫の惑星です。ちなみに昆虫は地球の生き物なのかな・・・と疑うぼくは地球外生命の存在を信じていません。レイチェル・カーソン「沈黙の春」



昆虫好き
 前回は草木の話でしたが今回は昆虫の話にしました。ぼくは昆虫も好きなんです。昆虫のなにがそんなにいいのかと言うと、その様態のおもしろさです・・・とでも言えば優等生でカッコいいのですが、ただきれいだなと思う、というのが本当のところです。そう言えばたった今突然思い出しました。あれは45年近く前です。大阪の梅田駅近くの大きな書店で別役実の「虫づくし」という本を買って読んだことがありました。小説なんですかねエッセイですかね、郵便局の地下に住んでいて虫専門の月刊誌を古本屋で買ってひと月遅れで読んでいる男の虫についての考察という決して真剣に考えて読んではいけないかなり奇妙な話でしかしおもしろい本でした。当然ながら昆虫に関する学術的な記述はなにひとつなくて・・・1000円も出して買って・・・今ならきっと買いません。別役さんは別に虫好きだったわけではないようですが、テレビなんかで見る昆虫好きだという人は植物好きだという人と同じで、本人はまったく気付いていませんが、どこか普通の人とはちがうちょっと変わったところがあるようです。ぼくですか、ぼくは好きと言っても、ほどほどに、ですから・・・。

ウォーキング途中に
 休日ごとの野田山ウォーキングではいろんな虫を見かけます。一年を通してみると一番多いのはハチとアブで次がカメムシです。あとはチョウ、甲虫、バッタ、トンボという順になります。セミはカメムシの仲間ですが鳴き声が木の上から降ってくるばかりで、低いところにもとまるアブラゼミを除いて、易々と姿を見せてはくれません。そんなウォーキング中に偶然目にした虫たちが、これはこれは・・・、という驚きの行動を見せてくれることがあります。
 今回の主役は近ごろもっともぼくを驚かせてくれた虫です。ジョウカイボンという2センチにも満たない小さくて目立たない茶色の甲虫で春から夏にかけて広葉樹の葉の上でたまに見かけます。ジョウカイボンとはまた奇妙な名前がついたもんですがその由来はまったく不明です。(断腸花よりもっと信じがたい俗説はあります。)名前の意味は不明でも"ボン"だなんてどこかのボンボン(坊ちゃん)を親しげに呼んでいるみたいでおもしろい。ぼくはバカボンを連想します。

マユミの木の上で
 五月はいろんな花が咲いてウォーキングもウキウキ気分です。花に誘われいつものコースからちょっと外れて歩いていたらマユミの花にジョウカイボンが取り付いているのを見つけました。ジョウカイボンはちょっと見るとカミキリムシみたいですが体は前翅(飛ぶためではなく背中を守る翅)も含めて柔らかくホタルに近い仲間(ホタル上科)です。ホタルは肉食ですがジョウカイボンもまた肉食です。小さな虫を食べますが花の蜜も食べると本で読んだことがありました。

マユミの花につくジョウカイボン 5月12日 金沢市郊外の野田山

 十日ほどして、柳の木の下に二匹目のドジョウはいないと言うけれどあのマユミの木にまたジョウカイボンはいないかしら、と行ってみると、いるいる、やっぱりいました。先日のより大きくてこないだのは1センチ半ぐらいでしたがこれは2センチほどあって色も濃いようでした。
 

5月22日 野田山

 そして別の虫も見つけました。ジョウカイボンがいた近くの葉の上に大きさが5ミリほどのテントウムシの幼虫です。別の葉にはテントウムシの蛹(さなぎ)もくっついていました。

テントウムシの幼虫 5月22日 野田山
テントウムシの蛹 5月22日 野田山

 その次の日も休みだったのでまた同じマユミに行ってみました。さすがに三度目はないかと思っていたら・・・、いなければ書くわけありません、ちゃんといました。

5月23日 野田山

 少し離れたところにテントウムシの成虫がいました。テントウムシは身近な昆虫のように思えますがその種類を見分けるのは実はそう簡単ではありません。類似種が多いため識別が難しく図鑑にはナミテントウという名前で出ているもっとも普通に見られるテントウムシも大きく分けて四つの型すなわち、二紋型、四紋型、紋型、紅型に分類されていて、今見つけたテントウムシは赤地にたくさんの黒色の斑点があるので紋型の一種だろうと思います。

ナミテントウ 紋型 5月23日 野田山

 マユミに花が咲いているからでしょう虫がたくさん集まっているようなのでほかにもなにかいないかと探すともう一匹ナミテントウがいました。先のとは別の種類で黒地に赤い斑点が四つなので四紋型と言われているナミテントウです。

ナミテントウ 四紋型 5月23日 野田山

 ナミテントウはだれでもよく知っているナナホシテントウ同様にアブラムシを食べることから益虫として知られています。でもこのマユミにはアブラムシはいませんでした。下の写真はバイカウツギに付いたアブラムシを狙っている四紋型のナミテントウです。

バイカウツギでアブラムシを狙うナミテントウ 5月15日 野田山

 ナミテントウの写真を撮ろうとしてファインダー越しに追いかけていたらその行く手前方にジョウカイボンが歩いていて、それがテントウムシはジョウカイボンをちっとも気にしていないようすでどんどん近づいていきます。そして追いついたとたんにジョウカイボンに捕まってしまいました。ジョウカイボンは肉食です。お腹がすいていたんでしょうね、前脚と中脚でテントウムシをしっかり押さえつけて噛みついて・・・でもすぐに放してしまいました。硬かったのか臭かったのか、なんだこれ、こんなの食べられないよ、ということだったんでしょう。テントウムシは物理的刺激を受けると体から液体を出し異臭を発します。このジョウカイボンは経験不足だったみたいです。そのあとこの二匹はなにごともなかったようにそれぞれ別方向に歩いてマユミの葉の裏に隠れてしまいました。

ジョウカイボンの後ろからテントウムシが 5月23日 野田山
テントウムシを捕まえたジョウカイボン 5月23日 野田山



 それから数日後、ジョウカイボンがテントウムシと対決したマユミに行ってみるとジョウカイボンの姿はありませんでした。ぐるりと木を一周して上から下まで探してもいません。テントウムシもいません。マユミは花を全部落としていて葉には虫に食べられた穴がいっぱいでした。 2023年6月10日 メキラ・シンエモン(虎本伸一)




花を撮る虫を撮る
 草花も昆虫もぼくにとってはウォーキング途中の楽しみです。ウォーキングは運動のためで花や虫を見るのはついでです。だからコースから外れて藪や林の中に分け入り花や虫を探して歩くということはしません。目についたから観るということですが、それは立ち止まるということだから運動は中断してしまいます。そして、いいな、と思ったらいつも携行しているデジタルカメラで写真を撮るのでますます運動は中断します。それで早足に歩きます。早足なら花も虫も目に入らないんじゃないの、いいえそんなことはなありません、というのはいつどこにどんな花が咲きどんな虫がいるかは経験からわかっているし意識が導いてくれるようで自然に気付きます。きれいな花を観たい珍しい虫に会いたいと思っているとその通りになることが多いのです。ホームページに載せる写真はこうして撮ったもので記事に使うことを予定してわざわざ写真を撮ることはほとんどなく記事に添える写真は保存してあるファイルから探します。ちょうどいい写真があればラッキーなければしかたがありません。 (虎本伸一)



写真:虎本伸一


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