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庭の二羽のキジバト 鳩の子ども

 鳩の子どもはなんと呼ぶ。小鳩。よく聞くけどなんか違う。小鹿はいけるけどね。じゃあ子鳩。子の字を当てるのは見たことがない。子猫子犬子豚はあるけど。馬なら仔馬。では幼鳩。それ何と読む。ヨウキュウと読むしかないけどピンとこない。それならやっぱり幼鳥。鳩限定じゃないけどね。

 前庭の松に卵をふたつ載せたキジバトの巣を見つけたのは一月ほど前の9月28日でした。いつ産んだのかな、無事に雛が生まれてくるといいんだけど、と気を揉んで待つこと半月の10月13日巣の上に綿の塊のような雛がいるのを見つけました。卵はふたつとも孵化していて五日ほどたっているようでした。その二日後の早朝親鳩が授乳しているところを偶然目にしたときには雛はびっくりするほど成長していて大きくなった翼をバタつかせていました。鳩の親は雄雌ともに体内でピジョンミルクというものを作り口移しで雛に与えて子育てします。それでぼくは授乳と呼んでいます。


10月17日 月曜日 いい天気
 親鳩はいつまで授乳のために巣に通って来るんでしょうか。応接間のガラス戸越しに授乳シーンに遭遇したのは上にも書いた15日早朝の一回だけです。この日の朝、外がだいぶ明るくなったので雛はどうしているかと応接間に見に行くと、ああ、親が来ている、とびっくりして慌てカメラを向けて写真を撮ると、すぐに向こうもこっちに気付いたらしく巣に登らずに飛んでいってしまい向かい学校の校庭のクマノミズキに止まり、暫くして巣の真上の電線に移ってこっちを窺っていました。それでぼくも二階の部屋に戻って電線を見ると、あれっ、いない、さてはぼくが消えたので木に戻ったか、と思って再び応接間へ駆け下りるとまさに授乳の最中で、親鳩の嘴に雛が背伸びして嘴を当てていました。それ以来今日までぼくは親鳩を見ていないのですが、きのう女房がお昼ごろに夫婦そろって巣に来ているところを見たと言っていました。鳩に夫婦は変ですか、つがいと言うべきですが仲がいいし雛に授乳するんだから夫婦と呼びたい気分です。ちなみに夫婦は大きさも色も同じでどっちがどっちか見分けがつきません。雄の方が雌より首がわずかに太いという話もありますがそれなら一緒に並べて比較して初めてわかります。
 雛はもう雛とは呼べない大きさに育っています。でも若鳥と言うにはまだ子どもっぽくて頭も小さいし首の模様も現れていないし目の周りも赤くありません。幼鳥と呼ぶのがいいようです。それにしても成長が早い。このぶんなら巣立ちは23日の日曜日と予想しました。

授乳に来た親鳩 10月15日
キジバトの授乳 10月15日
巣の中に座るキジバトの幼鳥 10月17日

10月21日 金曜日 悪くない天気
 朝起きて巣を見上げると、あれっ、いない、幼鳥がいません。どこへ行った。きょろきょろして探すと巣から少し下の枝に二羽とも止まっています。きのうは巣を出て横に座っていました。ほんのちょっとしか離れていない下の枝ですが歩いて行ったはずはないから飛んだんでしょう。飛ぶ練習をはじめたのかあるいはもう自分で餌を取りに行っているのかもしれません。巣立ちが近いのか。
 木の下へ回って見上げても親鳩と違って逃げません。逆に堂々とこっちを見下ろしています。暗いので試しにとフラッシュを発光させて写真を撮っても知らん顔で、これでも歴然(れっき)とした野生の鳩だ、先祖は多田満仲(ただのまんじゅう)じゃなかった・・・肉食の恐竜小型獣脚類なんだから、といった感じです。それともまだ子どもだから警戒ということを知らないだけなのでしょうか。あるいはぼくに見られるのに馴れてしまったのかもしれません。それはともかく、兄弟はとても仲が良くいつ見ても一緒で一羽だけで木に止まっていることはありません。
 日が沈んで薄暮の時間、松の木にキジバトの幼い兄弟の姿が見えません。鳩は鳥目だろう、こんな時間までどこへ行ったんだ。帰りが遅い子どもを心配する親の心境です。もしかして親鳩が来てねぐらへでも連れて行った。

巣から離れて松の枝に止まっていた 10月21日

10月22日 土曜日 昼過ぎまでいい天気
 夜が明け明るくなって応接間のガラス戸越しに松を見ると、いるいる、キジバトの幼い兄弟は木に戻っていて真ん中あたりの枝にちょこんと並んで座っています。ぼくはホッとしていました。
 もう飛べるようだしそろそろいいかな。様子見に巣から遠い下の方の枝を剪定してみます。巣を見つけたのは松の剪定の最中で卵がふたつあったので直ちに中止していました。午後からは雨だというので朝早くからかかりました。キジバトの幼い兄弟はというと、それがどこにも行かずに枝に止まったままで首を傾げたり回したりしてこっちを見下ろしています。二羽は時々ほかの枝に移りますが飛んでいく気配はなくでも常にこっちを向いています。兄ちゃん、あれなにしてるの。さあ、なにしているんだろう、わからないよ。ぼくの姿がよく見えるところを探して移動しているみたいにも見えます。まったく馴れている。それとも警戒している。あるいは珍しいから見学しているのか。
 今日はここまで、と作業を止めると、もう終わりか、と言わんばかりに兄弟はそろって向こうをむいてぼくにお尻を見せました。結局最後まで兄弟が飛び立つことはありませんでした。夕方になって木を見るときのう同様今日も二羽の姿はありません。夕方から出歩く癖があるのかな、隣の家からラジオの音は聞こえてこないけど・・・。それともごはんに行った。

ぼくが作業を終えるとそろってお尻を向けた 10月22日

10月23日 日曜日 きのうと似た天気
 朝になってもキジバトの幼い兄弟は松に戻っていませんでした。きのうの剪定が巣立ちを促したのか、それともあるいは追い出したことに・・・、いやいや、そろそろ時期だった。とにかく鳩がいないうちに剪定の続きです。松は新芽が今年の春いっぺんにぐぅーんと伸びてそれが長く暑かった夏の間に太くなっていてなかなかに手ごわい。今年は鬱陶しく見える枝を思い切ってバッサリやってしまおうと思っています。もちろんキジバトの巣はそのままにしておきます。でもそのつもりがなかったとしてもそのままにしておいたでしょうというのは巣が糞で真っ黒だったんです。ちょっと触る気にならない。枝に付いている糞はそれほど多くはなかったのに巣がこんなになっていたとは・・・。なるべく下に落とさないようにしていたのなら行儀のよい一家です。もしかして親が兄弟を雛のころから教育していた。おまえたちよそ様のお庭なんだから汚しちゃいけないよ。はーい。はーい。しかし、なるほど巣がこれじゃあ雛が大きくなったら巣から出てしまうはずです。いや、大きくなっても巣に座っているところを1回だけですが見ていました。4時間近く作業して、あとまだもう少しやらないといけないんだけど雨になりそうだ、と脚立を降りました。


 夕方、雨が止んで女房とふたりで伐り落した新芽や枝を拾っていると雨に濡れた濃い茶色の羽根が1本、地面を覆う苔の上に落ちていました。小さな羽根でしたが古くなって抜け落ちたようにも見えたからきっと親鳩の尾羽でしょう。このところ親鳩を見ていないけどいつ落ちたんだろう。

 キジバトの幼い兄弟はすっかり日が暮れても姿を見せませんでした。丸一日いなかったのは初めてです。もう戻って来ないのかな。(2022年10月25日 メキラ・シンエモン)



三日後、キジバトの兄弟が帰ってきました。顔つきが心なし大人っぽくなっていました。




写真撮影:メキラ・シンエモン



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